婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
【第2章】
第6話:「…………トレーニング頑張ってるよねぇって」
「姉ちゃんシュッとしたね」
横浜港外にあるひとり暮らしの自宅に、玲央が遊びに来ていた。
近くで友達と遊ぶ予定があり、その前に寄ってくれたらしい。
「結構痩せたんじゃない?」
「それが、体重はあんまり落ちてないんだけどね」
「そうなの?」
「うん。悠貴は数字を減らすことに重きを置くダイエットは推奨してないんだって。体重計に乗って一喜一憂するのはアホらしいからやめろって」
自分の体調の変化のために記録を付けるのは良いけど、生きてるんだから毎日多少変動するのは当たり前、らしい。
「うわ、あいつが言いそう」
「痩せるというよりは変わる、を意識した方が良いんだって。でもこんなに緩やかな減量でいいのかな~とも思っちゃうけどね」
「いいんじゃない? 現に変わってるよ」
「ほんと? 自分じゃあんまりわかんないんだ」
体調が良くなった自覚はあれど、見た目の変化はあまり感じていなかった。
頑張った成果が出ているのだとわかると、素直に嬉しい。
ちょうどケトルのお湯が沸いたので、嬉しい気分のままポットに紅茶を淹れる。
ふたり分の淹れたての紅茶にレモンを浮かべていると、しばらくその様子を黙って見ていた玲央が突然口を開いた。
「……で、悠貴とはどう? 仲良くなった?」
「え」
いたって自然な話の流れだったかもしれないけど、ドキリとする。
「どうって……普通だよ」
極めて平静を装って答える。
彼にジムで押し倒されたあの夜から、まだ一週間とちょっと。
忘れられるどころか、ふとした瞬間にあの時の悠貴の手つきや呼吸、物欲しそうな目を思い出してしまう。
「なんだよ、悠貴とおんなじこと言ってる」
「え?」
テーブルの向かいでつまらなそうにクッキーを口に運んだ玲央に向かって、思わず身を乗り出した。
「それいつの話?」
「え? 先週の土曜だったかな」
あの夜の、次の日だ。
「私のこと聞いたの? 同じってなに?」
矢継ぎ早に聞きすぎたのか、玲央は怪訝そうに眉をひそめた。
「なに、悠貴となんかあった? 喧嘩でもした?」
「いやなんも! なんもないけど」
玲央の反応を見るに、悠貴と私にそういうことがあったことは知らないらしい。
そもそも、悠貴が玲央にそんなこと報告するわけがないだろうけど。
「……私のこと、なんて言ってた?」
「だから、普通だって。あ、あと」
「あと?」
「…………トレーニング頑張ってるよねぇって」
玲央の目が、明らかに泳いだ。
いくつになっても嘘とか、誤魔化すのが下手すぎる。
言わなくてもいいこと言っちゃった、という顔をしている。