婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
「なに、ほんとは何て言ってたの」
「だから頑張ってるねぇって」
「うそ、悠貴そんな口調じゃないでしょ」
「それは俺の言い方の問題じゃん!」
変な方向に反論してきた玲央に呆れて、私もクッキーをかじった。
可愛い缶に仕切りなく様々なクッキーがぎゅうぎゅうに詰められている、流行の商品だ。
来たるバレンタインやホワイトデーに向けて、今年も人に贈りたくなるお菓子の研究も始めていた。
大きなハート型の赤いアイシングクッキーをつまんで、一瞬迷って缶に戻す。
悠貴は私のことをどう思っているのか。
玲央になんて言ったのか。
「とにかくさ、悠貴悪いヤツじゃないでしょ。まあ性格的にわかりやすく良いヤツというわけじゃもないかもしんないけど……なんだかんだ一カ月以上うまくやってんだからいいじゃん」
開き直った玲央の言葉に、「んー……」と上部だけで返す。
なんだかんだうまくいっている。
実は、ここ最近はそうでもない。
悠貴の真意がわからずモヤモヤしているのは、あの夜のことだけでなく最近の彼の態度も相まってのことだった。
パーソナルトレーニングの日ではなくても、彼とはジムで会うこともある。
今までだったら、挨拶だけでなくムダに絡んできたりしたのにそれがないのだ。
何というか、以前よりあっさりしている。
そしてパーソナルトレーニングでも指導はしっかりしてくれるけど、私の体に触るのを避けている感じがするのだ。
……私の休憩時間、たまたま近くでマシンを使っていた女性の利用者には触れてアドバイスしていたのに。
別にそれが寂しいというわけじゃない。
あの夜は流されてしまったけど、あれくらいのことで彼を好きになったりなんかしない。
もう苦しい思いはしたくない。
結婚を目標にはしているけど、うかつな恋愛で自分が傷つくのはもう嫌だ。
けど……。
好きじゃないけど、急に触れられなくなったら変な感じがするし、気になる。
というか、あんなことをしたくせに素っ気なくなるってどういうことなの。
「悪い人じゃないのはもちろんわかってるけど、まだよくわからない部分が多すぎるなって」
「ふーん? 例えば?」
あまり考えないようにしていたことがある。
あの夜家に帰ってから、冷静になって思ったことだった。
「ほかの人にもああいうことしちゃうのかな、とか」
「え?」
「……ううん、なんでもない」
悠貴にアドバイスしてもらっていた女性の、照れたような嬉しそうな顔が頭から離れない。
あの屋上も、ふたりだけの秘密ではないのかもしれない。
得体の知れない重たい気持ちを、ハート型のクッキーと一緒に飲み込んだ。