婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
経験則でわかっていた。
なにか心が乱されることがあると、その後の仕事に影響してしまう。
もう29の大人なのに、うまく切り替えられない自分に腹が立ってしまう。
取引先の会社のビル前でおろおろと行ったり来たりを繰り返していると、向こうから吉光さんが走ってくるのが見えた。
「吉光さん!」
わかるように大きく手を振ると、紙袋とスーツのジャケットを小脇に抱えた吉光さんが気がついてこちらにやって来た。
「これ、さっきコンビニでコピーしてきた」
クリアファイルに入ったいくつかの冊子を、吉光さんから受け取る。
「すみませんすみません、ありがとうございます……!」
取引先に向かう途中のこと。
心ここにあらずで歩いていたせいか、大きなスーツケースを引いたサラリーマンと思い切りぶつかってしまった。
その時にノートパソコンの入ったトートバッグを思い切りぶつけてしまい、電源が壊れてしまっていることに気がついたのは取引先の会議室だった。
紙で持ってきたはずの資料は、あろうことか昨年のものだった。
完全に、私がちゃんと確認しなかったのがいけない。
パソコンが使えない以上会社からメールでデータを送ってもらうこともできず、取引先の人の前でパニックになってしまった。
会社に報告すると、丁度ほかの件で近くまで出ていた吉光さんが来てくれることになったのだ。
「行こう、僕も一緒に謝るから」
「すみませんご迷惑をお掛けして……」
「落ち込むのは後でいいから今は切り替えよう、ね?」
笑顔でポンと肩を叩かれる。
とんでもないミスをしてしまったというのに、吉光さんは怒ったり嫌な顔をしたりしなかった。