婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
吉光さんのおかげで、取引先での打ち合わせは無事に終えられた。
私があまりにも落ち込んでいたからか、吉光さんは気を使って帰りにご飯に誘ってくれた。
失敗したのは自分のせいなのに、フォローだけでなくメンタル面まで面倒を見てくれようとするなんて申し訳なさすぎる。
渋谷の駅に併設されたビルにある、軽くお酒の飲めるダイニングにやってきた。
「今日は本当にありがとうございました、次はちゃんと気を付けます」
「もういいよ、何度も聞いた。何年も仕事してたらこういうこともあるよ」
吉光さんは笑ってくれたけど、すぐには気持ちを切り替えることができない。
「……ほんとにすごいです、吉光さんは。打ち合わせも完璧にサポートしてくださいましたし、お詫びのお菓子まで持ってきてくださって」
吉光さんが届けてくれたのはパソコンと資料だけでなく、発売したばかりのうちの新商品だった。渋皮モンブラン味のフィナンシェ詰め合わせ。
「乗り換えまで時間があったからね、駅ビルに店舗が入っていたのを思い出して。物で許してもらおうってわけじゃないけど、やっぱりあるとないとじゃ違うから」
そう言って吉光さんはニコニコと笑った。
……さっきからやけに彼が嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
不思議に思ってチラリと吉光さんの目を見遣ると、バチッと目が合ってしまった。
気まずくて目を逸らすと、彼は「ごめん、顔に出てたかな」と笑った。
「反省モードの白藤さんには悪いんだけど、結果的にふたりでご飯を食べに来れて良かったと思ってるんだ」
「……え?」
予想外の言葉に、何を言っていいのかわからない。
「白藤さん、細かいところまでよく見てるでしょう。いつも丁寧に一生懸命仕事しているのを知ってるから、こういう時に助けてあげたくて。それに、前からちゃんと話してみたかったんだ」
「それは……」
言いかけたところで、飲み物が運ばれてきた。
店員さんにお礼を言って、私のウーロン茶と、吉光さんが頼んだどこか外国の瓶ビールとグラスを受け取る。
吉光さんにグラスを渡す時、彼の手が私の指ごとグラスを掴んだ。
そして慌てたように、パッと離される。
「ごめん」
「あ、いえ」
そんなに慌てなくてもいいのに。
これぐらいでセクハラだと言うなら、以前までのベタベタ触ってきた悠貴は訴えたら勝てるレベルだ。
……いけない。
頭が勝手に悠貴のことを考えて、自分でも困惑した時だった。
「ごめん、失礼な反応をして。ちょっとドキドキしてしまって」
少し言いづらそうに、それでも私の目を見て吉光さんは微笑んだ。
「白藤さん、最近すごくキレイになったから」
吉光さんは、こんな歯の浮くようなセリフを言う人だったっけ。
酔っているのかと思ったけど、彼はまだグラスに口を付けていなかった。