婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
第8話:「ちょろ過ぎ」
週二〜三のトレーニング、そしてストレスない食事管理によって、自分でもわかるぐらいに体の変化を感じるようになった。
座っている時、お腹を引っ込めなくてもスカートの上にお肉が乗らなくなったし、クローゼットに眠っていた二の腕がパツパツだったタイトなニットも堂々と着ることができる。
着れる服が増えたのに合わせて、久々にアイシャドウも新調してみた。
デパートに売ってる、でもそれほど高すぎない4000円のやつだ。
まだ開封していないけど、いつ使おうかとタイミングを計っている。
今日のトレーニングでは、悠貴の提案で「レッグプレス」の負荷を上げることになった。
これは下半身を鍛えるマシンで、座って膝を曲げた状態から足を伸ばす。
簡単な動作だけど、これをやり始めたおかげで足もお尻も引き締まった、気がする。
「じゃあ、試しにこれでやってみて」
マシンを調整した悠貴に促されて、トレーニングを始める。
当たり前だけど今まで通りにスッと足を伸ばすことができず、太ももがプルプル震える。
「案外いけそうだな、回数は前と同じでいいか」
「わ、わかった……」
かろうじて頷くと、悠貴が「おお」と感心したような声で笑った。
「なに?」
「素直だなと思って」
「……私、ワガママ言ったことあった?」
「前はもっと優しくしてよって怒ってた」
そういえば、始めたての頃はあまりにもキツすぎてそんなことを言ってた気がする。
怒ってたというより、筋肉痛に耐えかねて顔がこわばっていただけなんだけど。
機嫌良さそうに横で見ていた悠貴が、ふとこちらなに手を伸ばしかけた。
「ここ、背中背もたれから離さないで……」
私の肩を掴もうとした悠貴の手が、明らかに一瞬戸惑って引っ込んでいった。
「ちゃんとくっつけて。あと腰も浮かさないで」
声だけで指示を出した悠貴に、素直に「うん」と頷いた。
やっぱり、ずっとこんな調子だ。
前は遠慮なく触っていたのに。
彼のことで悩むのはやめようと決めたのに、もやもやしてしまう。
ぼんやりしながら両足を動かしていると、悠貴が口を開いた。
「そういえば一昨日の夕飯、送ってないだろ」
「え?」
「食べてないの?」
「ううん」
「じゃあ後で送って、写真ないなら文章でもいいから」
一昨日は、吉光さんと三回目の食事に行った。
ちゃんと写真も撮って、悠貴に送ったはずだ。
終わったら確認しよう、そう思いながら今はとりあえずトレーニングに励むのだった。