婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
トレーニング終わり。
ロッカールームで悠貴へのメッセージを確認すると、確かに一昨日の夕飯だけ写真が送れていなかった。
正確には、送ったけれど届いていなかった。
その時は気が付かなかったけれど、未送信になっているようだった。
地下にあったお店だったから、電波が悪かったのかもしれない。
再送信して、「よろしくお願いします」とメッセージを追加する。
すぐに既読のサインがついた。
送った写真を見ながら、一昨日の夜のことを思い出す。
この日は、少し前に流行したシーフードレストランへ行ったのだった。
サーモンのサラダやエビのグリルなど、炭水化物少な目のアラカルトを数種類吉光さんと分け合って食べた。
デザートももちろん頼んだ。
シーソルトバニラとチョコレートのミックスジェラート。
どれも美味しかったけど、ふたりして仕事の話に夢中になってしまった。
やっぱり、会社の人との食事は会社の話になってしまう。
今度新しく開発する商品のコンセプトは、ダイエッターでも気にせず食べられるお菓子。
企画開発部の私と吉光さんは、この企画に頭を悩ませている。
実は以前に糖質制限ダイエットがブームになった時、カロリーカットの焼き菓子を売り出したことがあった。
しかし売り上げは低迷。
レギュラー商品から外されネット販売のみになった後、ついには終売に。
SNSのレビューには「物足りないお菓子でカロリー摂取するくらいなら、食べない方がマシ」と書かれていた。
すごくわかる。
ダイエット用のお菓子イコール物足りない、美味しくないというイメージは根強いし、正直私もそう思う。
会社としては一度失敗しているので、企画を進めるのも厳しく慎重になっている。
売れない物を無理に作らなくてもいいんじゃないかと思うけど、上がやると言ったらやるしかない。
それに今回の仕事は、約10年企画開発に携わってきた私の勝負所かもしれない。
これまでの研究の成果やチームの力を合わせて、絶対良いものを作りたい。
今まさにダイエットをしているタイミングでこの企画が持ち上がったのも、いいタイミングだった。
自分に自信を持つために、前を向くためにダイエットをしている人。
そんな人が「これ食べて頑張ろう」って思えるような美味しいお菓子を作ろうと、心に決めた。
ジムの仲間に意見を聞いてみるのもいいかも、と思いながらロビーへ向かう。
受付で会員証を受け取って帰ろうとすると、玄関を掃除している悠貴が目に入った。
手際よくホウキとフワフワのハンディモップを使い分ける悠貴に、よく働くなぁと少し感心する。
しばらく目で追っていると、悠貴も私に気がついたようだった。
すると、彼が掃除道具を置いてつかつかとこちらに歩いてくる。
その表情がちょっとムッとしている感じがして、え? と思っているうちに腕を掴まれた。
「来て」
「え、なに?」
「いいから来て」
速足の悠貴に引っ張られて、よくわからないままジムを後にしたのだった。