婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
ジムの裏にある、人の気配のないビルとビルの間の通路。
街灯が少なく薄暗い場所で、悠貴が見せてきたスマホの画面がまぶしく光を放った。
「これ、飲み会?」
スマホの画面には、さっき私が送ったシーフードレストランでの食事の写真が映っていた。
「違うけど……」
詰めるような悠貴の態度に戸惑う。
エビ食べちゃダメだった?
お酒飲んだの隠したと思われてる?
別に隠したところでどうにもならないし、アルコールを一滴も摂取するなとは言われてないはずだけど。
「飲んでないよ、軽く食事しただけ」
「ふたりで?」
想像していなかった問いに、さらに戸惑う。
「そうだけど……。あ、量の問題? 送った通り、これの3分の1ぐらいしか食べてないから――」
「男でしょ、この手」
「え?」
サラダの写真の端の方に、腕時計をつけた吉光さんの腕が少しだけ写っていた。
送った時には気がつかなかったけど、入ってしまっていたらしい。
「会社の先輩だよ」
「ふーん。デート?」
デート、と口に出されるとなんだか気まずい。
いけないことをしているわけじゃないのに、彼にそうだと言うのをためらってしまう。
「……なんでそんなこと聞くの?」
答える代わりに、気になったことを疑問で返す。
「そんなの……」
なにか言いかけて、悠貴は口を噤む。
最早不機嫌を隠そうともしない彼は、乱暴にスマホをポケットに突っ込んだ。
余裕のない、煮え切らない態度。
――もしかして、嫉妬してる?
そんなはずはないと思いつつも、悠貴のこの様子を見るとそう勘違いしてしまう。
しばらくふたりで黙ってしまって、やっと悠貴が口を開いた。
「瑠衣さん」
「はい」
「ちょろ過ぎ」
「……は?」
「その男大丈夫? 会社の先輩ってことは、前から瑠衣さんのこと知ってるんでしょ。痩せてから寄ってくるような男なんて、ロクでもないんじゃない? あと時計のセンス悪い、なんかダサい」
「ま、待ってよ」
立て板に水を流すように話し続ける悠貴を、慌てて遮る。
「先輩はそんな人じゃない、ちゃんとした人だから」
「……へえ」
「それに時計の好みは、人それぞれでしょ」
悠貴は頭をガシガシとかいて「すげー庇うなぁ」と呟いた。
「好きなんだ、そいつのこと」
「そ、れは……」
正直よくわからない。
理世の言う通り、結婚を諦められない私にとって絶好のチャンスなのはわかっている。
吉光さんがすごくいい人なのもわかっている。
本当に、私なんかにはもったいないくらい。
だからこそ、彼の好意を受け取らないのはワガママなのかもしれないけど。
口ごもる私を見て、悠貴はあからさまにため息をついた。
「懲りないな」
「なにが」
「ひどいフラれ方、したばっかりなのに」
その一言に、一瞬で心が冷たくなる。
「……なんで知ってるの」
確かに元彼に遭遇してしまったところに悠貴も居合わせていたけれど、どっちがフッたとか何を言われたかとか、込み入った話はしていない。
「今それは重要じゃない、とにかく焦って男捕まえようとすんな」
「そんなの、悠貴に関係ない」
どうしてそんなことを言われなきゃいけないのか。
というか、私で遊んでそのまま放置している悠貴にそんなことを言う筋合いはないはずだ。
「俺は忠告してるんだ」
「間に合ってるから」
「いいから聞けって。いい大人のくせに、その辺の男にホイホイついていくな」
「いい大人だから焦ってんの!」
カチンときてつい大きな声で言い返してしまった。
わかった口でお説教のように言われると腹が立つ。
「周りが当たり前に結婚してるのに、それが普通の世の中なのに、そんな普通のこともできないんだから焦るに決まってる!」
若い悠貴には、私の気持ちなんてわからない。
本当にホイホイついていっているように見えるのか、私はそこまでバカじゃない。
自分がどうなりたいのか悩んで、選択している最中なんだ。
なにか言おうとした悠貴を無視して、駆け足でその場から逃げた。