婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

第9話:「瑠衣さんにとっての幸せってなに?」


 終業後、渋谷の駅についた頃には雨が土砂降りになっていた。
 会社を出て電車に乗っていた時から、遠くの方で雷の落ちる音も何回か聞いている。
 
 こんな日に大雨なんて、ツイてない。

 これから、吉光さんと食事に行くことになっている。
 大事な話がしたいと言った彼は、驚くことにホテルのレストランを予約してくれていた。

 結婚を見据えた付き合いを考えている吉光さんの、覚悟を示されているのかもしれない。
 本気の彼に、私もいつまでもウダウダ悩んでいてはダメだ。

 腹をくくるしかない。

 ……吉光さんのことは、これから好きになれば良いんだから。
 
 傘から体をはみ出さないように、ギュッと縮こまりながらタクシー乗り場へ向かう。
 
 冷たい雨のせいで、空気がひんやりして寒い。

 そこまで距離のある場所ではないので、本当は歩いていくはずだった。
 けれど、この雨ではせっかく新調した白いニットワンピもパンプスも汚してしまう。
 
 会社で浮かない程度のオシャレのつもりだったけど、出社早々に後輩の女の子から「どうしたんですか今日、可愛いですね!」と言われて恥ずかしかった。
 目立っていたわけではなくて、私がアクセサリーもつけてオシャレしていたことが珍しかったらしい。

 社外で仕事をしていた吉光さんは、先にホテルに向かっているようだ。
 
 タクシーに乗り込み、運転手さんに行き先を告げた。
 車窓の外、行き交う人々を見ながらぼんやりしてしまう。
 
 今晩の食事で、私の人生は明るい方向へ変わっていくんだろう。
 嬉しいはずなのに、どうしてか気持ちは低いところをふらふらと浮いている。

 タクシーが進んでいくと、先日見たオシャレな二階建てのカフェが目に入った。
 悠貴が女性と一緒にいたカフェだ。

 思わず目を背ける。

 それでも、悠貴に言われたことが勝手に頭に浮かんだ。

 焦って男捕まえようとするな……か。

 私におせっかいだとか、人のことに首を突っ込むなとか言ったくせに、自分はどうなんだろう。

 とにかく、今日私は覚悟を決めるんだ。
 これでもう悠貴に振り回されることもない。

 もう29歳なんだし、安定することを一番に考えなきゃ。
 
 スッキリできない気持ちを払拭したくて、自分自身にそう何度も言い聞かせた。

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