婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

「玲央が心配してた。また傷つけられたらどうするんだ」
「え?」

 玲央の名前が出てきて、一瞬戸惑う。

「結婚するために我慢して付き合ってたんだろ、あのモラハラ彼氏と」

 悠貴はためらう素振りも見せつつも、「玲央に話聞いた」と呟いた。

 元彼にフラれた、あの日。

 酔った勢いとアルコールが入った変なテンションで、玲央に電話で思いっきり愚痴を言ったことを思い出す。
「それモラハラだよ」と玲央は相づちを打っていた。

 まさかあの時のことを悠貴に話しているなんて。
 この間、悠貴に私のことを話したと言った時の玲央の様子がおかしかったのは、話したことを誤魔化そうとしていたからだ。

「玲央を怒るなよ、あんたのこと心配して話したんだから」

 私の心を読んだかのように、悠貴が釘を刺す。

「なによ、玲央の味方にはなるんだ」
「友達なんだからそうだろ」

 開き直ったのか、それとも酔いが醒めてきたのか、いつもの調子に戻りつつある悠貴がフッと笑った。

「あんたがフラれてめんどくさいことになって、それを毎回慰める玲央の身にもなれ」
「もう、わかったから」

 未だにもたれている悠貴をグイグイと押し返す。

 少しでも、悠貴が私に気があるんじゃないかと思ってしまったことが腹立たしい。

「……玲央はどこまで喋っちゃったの?」
「ん?」
「別に玲央を怒ったりしない。でも私が教えてないことを悠貴が知ってるのは、ちょっとやだ」
「それもそうだな」

 太ったからフラれたことも、早く結婚したくて痩せようとしてることも、悠貴は全部知っているんだろう。
 オープンでフラットな関係とは言え、相変わらず私だけがオープンすぎる。
 
 玲央はなにか恥ずかしいことまで教えていないだろうか、と心配になってふと思い出した。
 電話で愚痴を聞いてもらっていた時、最後に少しだけ泣いてしまって、玲央を心配させてしまったのだ。
 
 ――本当はね、あの人と結婚して良いのかよくわからなかった。
 付き合ってしばらくしたら会ってもそういうことしかしてくれなくなって、彼女じゃなくてセフレみたいだと思ってた。
 だから、太って好みの体じゃなくなったから、捨てられちゃったのかな……。
 
 そう言った私に、玲央は真剣にかける言葉を探していたように思う。

「瑠衣さん、幸せになるためって言ったでしょ。痩せる理由聞いた時」
「……そうだっけ」

 キレイになって早く結婚したいから、を誤魔化すためにそう言った気がする。

「そろそろ知りたいと思ってたんだけど、瑠衣さんにとっての幸せってなに?」
「え?」

 世間一般の女性の幸せに、結婚が含まれていることはよくわかっている。

 結婚することが幸せなのか。
 幸せになりたいから結婚するのか。

「瑠衣さんからしたら俺みたいなガキになにがわかるんだって思うだろうけど。でもガキの意見を言わせてもらうと、周りがみんなしてるからって急いで結婚する意味がわかんない」
「またそれ……」
「体目当てのモラハラ野郎とか、迷う相手と結婚するぐらいなら、自分のために思いっきり生きた方が楽しいだろ。俺だったらそうする」

 改めて口に出されると、そうだと思う。
 でも悠貴が言った通り、その言葉に納得させられるほど私は素直でもないし、若くもない。

「……そうだね」

 不毛な言い合いをするのも嫌だから、曖昧に答える。

 エレベーター、早く動くようにならないかな。

 体目当てのモラハラ彼氏と言ったけど、悠貴だって私をからかって、手を出してきたこともあったくせに。
 それがぱったりと無くなって、私がどれほど思い悩んだことか。
 
 ――あれ?
 
 思い返してみれば、悠貴が私の体に触れなくなったのはいつからだったか。
 玲央に私のことを聞いた、その後から?
 
 トレーニング中。私に触れようとしたのに、ブレーキをかけるように手を止めた悠貴を思い出す。

 偶然かもしれないけど、都合の良いように考えてしまう。
 以前のようにからかったり触ったりしなくなったのは、私が元彼のセフレのような扱いに傷ついていたことを知ったから……?
 
 ぐるぐると考えていると、膝の上に乗せていた手を上からそっと握られた。
 
 驚いて悠貴の方を見ると、目が合った。

「なろうよ、幸せに」

 真剣な表情と言葉に、息をのむ。

「方法はこれから考えればいい、てか一緒に考える」
「……なんでそこまでしてくれるの」

 友達の姉だから?
 トレーナーだから?
 それとも、それ以外の理由が?

 悠貴は答えない。

 代わりに、手を握る力が強くなったような気がした。
 
 狭い空間にふたりきり、もう冗談も言えない雰囲気になってしまって胸がざわつき始める。
 その時、突如ブツッとなにかの電源が入ったような音がした。
 
 続いて悠貴のスマホが鳴り、ハッと我に返り彼から飛びのくように離れる。
 
 しぶしぶ電話に出た悠貴を横目で見ながら、いつの間にかうるさくなっていた心臓を必死に落ち着ける。
 
 また、彼に心が揺らいでしまった。
 
 幸せになる方法を一緒に考えるだなんて。
 そんなこと、初めて言われた。

「ホテルからだった。あと30分ぐらいで動くようになるって」
「そ、そっか。良かった」

 結局いつもと同じ。
 悠貴がなにを考えているのか、よくわからないままだった。

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