婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
【第3章】

第10話:「そういう顔、僕にもしてほしかったな」


「――以上のことから、今回の新商品のコンセプトは『プラスになるお菓子』です」

 部署合同の企画会議で、私はプレゼンをしていた。

 大勢ではないけど少人数でもない、10人程度の会議で理世も吉光さんもいる。
 試作品製作まで進んだドーナツは一度白紙に戻ってしまったため、また一からやり直しだ。
 
 振り出しに戻ったのは辛いけど、今回の企画には自信がある。
 
 ホテルでのエレベーター閉じ込め事件があった直後、私は家に帰るなり企画会議の資料を作り始めた。
 悠貴のアドバイスを聞いて、自分の中でもアイデアが浮かんできて俄然やる気になったのだ。
 
 ダイエッター向けのお菓子だからと言って、味が微妙なのは許されるわけではない。
 
 カロリーカット、糖質オフ、砂糖不使用など、どうしてもダイエット食品はマイナスされるものに目が行きがちだ。しかしそれでは味も落ちているのではないか、というイメージもついてしまう。
 だからこそ悠貴が教えてくれた通り、体づくりに必要な栄養素をプラスできる、という面を押し出すことにしたのだ。

「そして細かい部分かもしれませんが、キリの良い数字の計算しやすいカロリー設定にすることで、細かくカロリー制限をしている方も手に取りやすい商品になると思います」

 スクリーンに資料が映し出されると、吉光さんが顎をさする。
 メモを取りながら、真剣に見てくれているようだ。
 
 吉光さんとは、ホテルでのお詫びも兼ねてこの後お昼を一緒に食べることになっている。
 そこで、改めて自分の思いを彼に伝えるつもりだ。

「最後に、一番重要視したい『味』についてですが。第一弾は栄養価も高い里芋を材料に使用し……」

 美味しいのは大前提として、それでも私が最もこだわりたいところでもある。
 それにせっかく悠貴が提案してくれたのだから、この案は通したい。
 
 熱を持って話しているうちに、自然と背筋が伸びてきたのを感じる。
 
 思いを乗せて、できる限りアピールに励んだのだった。

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