婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

 12月に入り、街やお店ではクリスマスの装飾をよく見るようになった。
 
 横浜では大きな商業施設で毎年クリスマスマーケットが開かれるので、この時期になると特に活気が増す気がする。
 ジムに向かう道中も、いつの間にかイルミネーションが施されるようになっていた。
 
 信号を待っていると、隣に若い夫婦が並んだ。
 お父さんがまだ2歳ぐらいの女の子を抱っこしていて、興奮した様子でイルミネーションを指さす女の子を、夫婦ふたりで優し気に見守っていた。
 
 こういう瞬間を、幸せって言うんだろうな。
 
 ふと、理世のことが頭に浮かぶ。
 文句を言いながらも旦那さんのことを話す理世は楽しげだし、一緒に買い物をしていて、可愛い子ども服を見つけた時の顔はすごく嬉しそうだった。
 
 私もその幸せを手にしたくて、元彼のひどい態度やワガママも全部我慢もした。
 
 けどダメだった。
 そして大チャンスだったとも言える吉光さんのことも、自分からお断りしてしまった。
 
 ずっと、あんなに結婚したかったはずなのに。
 この数カ月で私の気持ちも変化してしまったのか。

 それとも、結婚すれば幸せになれるという考えが、そもそも私には合っていなかったのかもしれない。
 結婚することが幸せだと信じて止まなかった。

 その考え自体に――結婚に、縛られていたのかな。
 
 なにが幸せかなんて、たどり着くのは難しい。
 悠貴は言った。
 自分のために、思いっきり生きた方が楽しい、と。

 当たり前のようでいて、色々なしがらみに囚われてなかなか実践できないことだ。
 
 信号が変わって、人の流れと一緒に歩き出す。
 その時、バッグの中でスマホが震えた。
 長く振動していて、着信しているのだとわかって道端に寄りスマホを取り出す。
 画面に表示された名前を見て、目を疑う。
 
 元彼の和真からだった。
 
 一瞬動揺して、その場に立ち尽くしてしまう。
 
 どうして、何の用?
 
 正直、もう彼とは関わりたくない。
 結婚したかったからと言えど、思えばよく5年間も我慢していた。
 
 ざわつく気持ちを必死に抑えながら、鳴りっぱなしのスマホをバッグの奥底に突っ込んだ。
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