婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
仕事はかつてないほど順調なのに、心は晴れないまま。
元彼の連絡先は、あの後すぐに消去した。
最後に「誰か男いんの?」とメッセージが来ていたけど、電話に悠貴の声が載っていたのかもしれない。
昼休み、ぼうっとデスクで作業していた私を捕まえた理世が、会社近くのそば屋さんに連れてきてくれた。
「別にね、失礼な発言はもう今更なの。付き合ってる時も、そういう人なんだと思って諦めてたから。……なんでも言うこと聞いちゃってた私が悪いんだけど」
「うん」
「でも結婚に焦ってるあいつを目の当たりにしたら、なんかやるせなくて。私もそうだからさ」
「同情してる?」
「まさか。自分が惨めだなと思い知らされただけ」
私も理世も、期間限定のせりそばを頼んだ。
習慣のように写真を撮っていると、理世が七味をかけながらたずねてきた。
「その、写真送ってる彼には相談したの?」
「しないよ」
「したらいいのに」
「悠貴には関係ないことだし。もう連絡先消して着拒にしたから解決してる」
写真を送ってすぐに、悠貴からピコンと返信が来る。
相変わらず返信が早い。
いつも通りの食事の助言とともに、見慣れない画像が添付されてきた。
「なんだろうこれ……ギフト券? パン屋さんかな」
「ああそれ、駅の近くに新しくできたブーランジェリーよ。カフェも併設されてて、クロワッサンが美味しいの」
「へえ、新しいパン屋さん」
「ブーランジェリーだって」
悠貴に「くれるの?」と聞くと「朝も昼も軽めだったから、たまには気分転換にいいんじゃない」と返ってきた。
たまにはって、毎日ちょこちょこお菓子も食べてるんだけど。
「彼、優しいね」
「こんなこと初めてだからちょっと怖いんだけど」
「心配してるんじゃない? 瑠衣のこと」
「え?」
「自分じゃ気づいてないかもしれないけど。顔に出るタイプよ、瑠衣は」
思わず自分の頬をなぞる。
そんなことをしても、どんな顔をしているのかなんてわからないのに。
「瑠衣が元気がないから、なにか美味しいものでも食べさせてあげなきゃって思ったのよ」
「もしかして、理世も?」
「さあ」
「……ありがとう」
シャキシャキしたせりと一緒にそばを咀嚼した。
独特な香りとほろ苦さが、次の一口を誘発させる。
しばらく美味しいものを堪能していると、悠貴からまたメッセージが届いた。
ジムの前に時間ある?
一緒に行かない?
今日はパーソナルトレーニングではなくて、フィットネスジムでトレーニングをする予定だった。
確か今日火曜日は、悠貴は休みのはずだ。
「一緒に行こうって、悠貴が」
「いいじゃない」
「でもジムの外で会うって、なんかアウトな気がする」
「アウトでもいいと思ったから誘ったのよ」
「それって、どういう……?」
そばを食べ終えた理世が、少しテーブルに前のめりになった。
「彼さ、仕事の話をしてる瑠衣が好きだって言ってくれたんでしょ。いっぱい喋ってくれて嬉しいって」
「それは……好き、と言うか楽しそうで良いねっていう感じで」
改めて口に出されるとやっぱり恥ずかしくて、だんだん声が小さくなる。
「瑠衣もわかってんじゃないの? いくらなんでも、いっぱい喋ってくれて嬉しいなんて好きな相手じゃないと思わないわよ」
「そう、かな……」
理世はそう言ってくれるけど、悠貴に関しては計り知れないことが多すぎる。
出会って二カ月ほどになるけど、まだ彼の内面はよくわからない。
不器用だしわかりにくいけど、優しい人だということはわかる。助けてもらったこともたくさんある。
だけど、だからと言って悠貴が私のことを好きかどうかは別の話だ。
今までも私のことを好きなの? と思う瞬間は何度もあった。
でも結局、けむにまかれてしまって真意は不明なままだ。
振り回されては、私が気を引き締めるというのが常になっていた。
そもそも悠貴にとって私は友達の姉だし、5個も年が離れている。
……関係はわからないけど、オシャレをして会う仲の美人な人もいるようだし。
「じゃあ、瑠衣は彼のことどう思ってるの?」
「……わからない。けど、良いトレーナーだと思ってるよ」
「吉光さんの時と同じこと言うけど、逃がした魚は……ってことにならないようにね」
仕方ない、と言う顔で理世が苦笑した。
吉光さんの時とは、違う。
好きかどうかわからないんじゃなくて、この気持ちを認めていいかどうかわからないんだ。