婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
第13話:「幸せって、案外簡単なのかも」
お菓子や軽食を売るテント通りを、あっちを見たりこっちを見たりしながらゆっくりと進んでいった。
「瑠衣さん、あの白いお菓子はなに?」
「ドイツのバタークリームケーキ。フランクフルタークランツって言って、見た目の割にはあっさりしてて美味しいの。周りにまぶされた砂糖のジャリジャリ感も好き」
「へえ」
「シュトーレン以外も、ドイツのお菓子が結構あるんだね。あっ、見て! あんなに大きいヘクセンハウス初めて見た! うちの電子レンジくらいあるかも……」
「なにハウス?」
「ヘクセンハウス。お菓子の家だよ、ドイツではそう言うの」
細い円柱型のクッキーを丸太に見立て、ログハウスのように組み合わせられている。
屋根の滑らかなチョコレートや窓の飴細工も手が込んでいて、最早芸術作品だった。
売り物ではなく展示品みたいだったけど、もったいなくてあれを食べられる気がしない。
ほかにも珍しいお菓子はたくさんあって、見慣れない物があると悠貴はかかさず「あれはなに?」と聞いてきた。
せっかく説明してるんだからそのお菓子を見てほしいのに、悠貴は口元を緩めてずっと私のことを見ていたように思う。
私がお菓子の話をするのが好きと言っていたくせに、ちゃんと聞いているのかいないのか。
話しながらのんびりとマーケット会場の真ん中まで歩いてきた私たちは、そこの広場にあるイートインスペースで休憩することにしたのだった。