婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

 ロビーにあるソファに座るなり、彼女は一息つくこともなく話し始めた。

「私はアンナ。片岡(かたおか)アンナです」
「あの、えっと……」
「アンナでいいわ」

 高級そうな黒のキルティングコートに、真っ赤なエナメルのショートブーツ。
 高めの位置のボリュームのあるシニヨンは、後れ毛ひとつもなくきっちりとまとめられていた。

 近くで見ると、私より年上かもしれないと思った。
 そして目鼻立ちがしっかりしているし瞳もグレーがかっているので、どこか外国の血も入っている方なのかもしれない。

 彼女……アンナさんが悠貴の知り合いだということはわかっている。
 ただどうして急に私に声をかけてきたのかがわからなくて、あとハキハキはっきりしている彼女に気圧されて、たじたじとなってしまう。

 まさかアンナさんは悠貴の恋人で、私に文句を言いに来たとか……?

 ありえないことじゃない。

 もし本当にアンナさんが悠貴の恋人だったら、私は彼女に謝らなくてはいけない。
 ふたりきりで出かけてしまったし、ずっと前に体を触れ合わせてしまったこともある。

 でも、そうでないことを信じたい。
 今ここでアンナさんに悠貴の恋人だと言われても、もう後戻りできる気がしないのだ。

「……アンナさんは、悠貴の恋人ですか?」
「はあ? 違うわよ」

 意を決して聞いたのに、あっさりと否定される。
 ホッと胸をなでおろす。

「あんなクソガキ、絶対お断りよ」
「えっ……。え?」

 鋭い物言いに、驚きを隠せない。
 この人は悠貴のなんなのか、ますます気になってしまう。

「それよりあなたの名前、聞いてもいい?」
「えっと、白藤瑠衣です」

 雰囲気に圧倒されて、サッと答えてしまった。

「では瑠衣、単刀直入に聞くけど、あなたは悠貴の特別なのよね?」
「え? そっ、それは……」
「自覚がない? ならはっきり言うけど、少なくとも悠貴はあなたを特別に思ってる。あなたがどうかは知らないけど」

 アンナさんは、余計な会話を好まないタイプの人らしい。
 私のような、相手の顔色を見て回りくどく話をしてしまうタイプとは大違いだ。
 ズバッとした強い女の人には憧れるけど、あまりに切れ味が鋭くて冷や汗をかいてきた。

 ――私が、悠貴に特別に思われている。

 それは嬉しいことのはずだけど、正直なところアンナさんの言葉を素直に喜べなかった。
 私はこの人のことを知らないし、そもそも悠貴との関係もわからないから。

「……なんでそんなこと、アンナさんがわかるんですか」

 少し疑うような口調になってしまったけれど、アンナさんは動じずに答えた。

「わかるわ、ずっとあの子のこと見てきたから。コーチとしてね」

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