婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

 着替えが終わり、受付へ会員証を取りに行く頃には身も心も疲れ切ってしまっていた。
 なんだか余計な体力を使った気がする。

 今度から長袖長ズボン、完全防備で来なければ。

 カウンターへ行くと、スタッフさんの女の子が元気に会員証を渡してくれた

「瑠衣さん、今日もお疲れさまでした!」
「ありがとうございます」
「この間いただいたドーナツ、すごく美味しかったです!」
「わぁほんとに? よかった!」
「お店で見かけたら絶対買いますね!」
「ぜひ。また試作会があったらなにか持ってきますね」

 数日前にジムに来た時、彼女がなんだか疲れた様子だったのが気になってドーナツをあげたのだった。

 その日はダイエットドーナツの試作会があって、無事に最終決定を迎えることができた。
 だから彼女にお渡ししたのは、ほぼ完全クオリティのドーナツだった。
 これから販売に向けて、バリバリ広告や宣伝を出していくつもりだ。

「あ、そうだ瑠衣さん。契約のお話なんですけど」
「はい」
「今月――1月末でいったん契約が終了することになってまして……継続で大丈夫ですよね?」
「あ、そうですね」
 
 そういえば、玲央が勝手に取り付けた契約は三カ月で切れてしまうものだった。
 
 最初の頃はジムをやめてしまおうかと思ったこともあったけど、今はやめる理由は見当たらない。
 体重は約5キロ減量していて、悠貴は数字で一喜一憂するなと言ったけど、やっぱり嬉しい。
 
 リバウンドが怖いというよりも、トレーニングを続けること自体が楽しくなっていた。
 自分のために頑張ることは、自信にも繋がると実感している。

 それに、やめたら悠貴との縁がなくなってしまうかもしれない。
 トレーニングで触られるのは意識しすぎてしまって辛いけど……会えなくなってしまうのは嫌だ。

「では用紙をお渡ししておきますので、記入して次回お持ちください」
「はい、わかりました」

 それにしても、悠貴と出会ってもう三カ月も経ったなんて。
 彼とは色んなことがありすぎて、早かったような遅かったような変な感じだ。

 契約書やら案内やらの書類を一式受け取り、ジムの外へ出ようとした時だった。

「そこのあなた。アイボリーのオーバーコートの」

 よく通るハキハキした女性の声に、思わず足を止める。

 ……私のこと? 
 そうじゃないかもしれない、と思いながらも一応振り返る。
 
 少し後ろに立っていたその人物に、思わず目を見開く。

「少々いいかしら?」

 しっかりと私に目を合わせてそう言ったのは、以前カフェで見た悠貴と一緒にいた美女だった。

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