婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
帰りに汗で冷えないように、しっかりシャワーを浴びてからロビーへ向かう。
受付で会員証を受け取るとき、思い出したことがあって自分のおでこを軽く叩いた。
「あ、また忘れた……契約書」
今月末――もうあと三日でいったん契約が切れてしまう。
もう書類は書き終わっているのに、また家に置いてきてしまった。
「すみません、月末までに持ってきた方がいいですよね」
「ああ、お忙しいようでしたら今書類用意しますので、ここで書いていただければ」
「いえ、また明後日あたり来ますので、その時持ってきます。ありがとうございます」
金曜日にパーソナルトレーニングがあるから、どうしたって必ずジムには来るのだ。
紙ももったいないし、家に帰らないと銀行の口座番号などが確認できない。
スマホの後ろに、物理的にメモでも貼って忘れないようにしよう。
そう思いながら入り口に向かうと、「瑠衣さん」と呼び止められた。
まさかと思いつつも声のした方を見ると、悠貴がロビーの観葉植物の葉を布で拭いていた。
トレーニングウェアではなく、濃いグレーのセーターに白いパンツを合わせている。
「……なにしてるの?」
「葉っぱ拭いてる」
「葉っぱ拭きに来たの? 休みの日に?」
「そう」
意味のない会話をしつつも、内心では緊張が走っていた。
「体調大丈夫?」
「え?」
「最近ぼんやりしてるだろ」
それは、悠貴のことを考えているから。
吉光さんの言う通り、こんなに私を心配してくれる悠貴のことだ。
私が思い悩んでいる理由が自分にあるとわかったら、自分を責めてしまうかもしれない。
「全然大丈夫だよ、それじゃお疲れ」
悠貴と話す決心はしていたけど、それは今日じゃない。
逃げるように歩き出したけど、悠貴も小走りで追いついてきた。
「待って。雨ひどいでしょ、送ってく」
「えっ、いやいいよ。濡れちゃうよ」
てっきり駅までなのかと思ったけど、悠貴はポケットからキーを取り出した。
「俺車で来たから」
片づけてくるから待っててと言い残して、悠貴は私の返事も聞かずに歩いていってしまった。