婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
【第5章】

第18話:「そんなに心配しないで、私は大丈夫だから」

 
 2月が始まって最初の土曜日。
 
 神奈川の市内にある理世の家に、遊びに来ていた。
 出産してすぐに買った新築の一軒家ということで、まだどこもかしこもピカピカだ。
 
 ダイニングにあるテーブルで出してもらっていた紅茶を飲んでいると、4歳になる理世のお子さん、しーちゃんがこちらに駆けてきた。
 
 二つ結びにした髪の毛に、うさぎのマスコットの付いた髪飾りをつけている。
 まだツヤツヤの細い髪の毛が走るたびに揺れるのを見ていると、自然と頬が緩んだ。

「るいちゃん、これはなんでしょーか」

 ブロックで作った、多分車かなにかを私に見せてくれる。

「なんだろう、タクシーかな」
「ううん、ふくめんパトカー」
「ええ、しーちゃんよく知ってるね」
「ずかんにかいてあった」

 そう言うと、またリビングにある遊び場へ戻っていく。
 絵本の並べられた背の低い棚でなにかを探しているようで、きっとその覆面パトカーの載っている図鑑を見せてくれようとしているんだろう。

 その様子を見守っていると、キッチンカウンターから理世が戻ってきて向かいの席に座った。

「ごめんね、全然ゆっくりできないでしょ。さっきも付きっ切りで遊んでくれたのに」
「そんなことないよ。しーちゃん可愛いし、素敵なお家だからなんだかまったりしちゃう」
「海の見えるカフェテラスとは程遠いけどね」

 今日は、理世と会う約束していた。
 会社でも顔を合わせているけど、休日にのんびり遊ぼうというのは久しぶりだった。

 理世はお子さんを旦那さんに預けて、ふたりで話題のカフェに行ってみる予定だった。
 フランという、タルト生地にカスタードクリームを流して焼いたお菓子が美味しいらしい。

 しかし旦那さんの会社でトラブルがあったらしく、どうしても休日出勤しなくてはいけなくなり外出は諦めたのだった。

 しーちゃんをつれて電車で遠出するわけにもいかず、また日を改めようとしていたのだけど、理世が良かったらと家に呼んでくれたのだ。

「人を家に呼ぶの大変なのに、ありがとうね」
「繁忙期になる前に、瑠衣とゆっくり喋りたかったの」

 理世はさっきしーちゃんがテーブルに並べていった折り紙の花を集めながら、笑ってそう言った。

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