婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
15時を過ぎると、元気に遊んでいたしーちゃんもお昼寝タイムに入った。
どれだけ喋るつもりなのか、理世はテーブルに大量のチョコやおせんべいなどの大袋菓子をを開けていく。
「彼、もうカナダに行っちゃったの?」
開口一番、やっぱり悠貴の話だ。
理世も気にしてくれていたんだろう。
「わかんない」
「連絡とってないの? ジムは?」
「してないし向こうからも来ない。ジムは休会中」
悠貴のためとは言え、そういう関係ではないと言って彼を傷つけた手前、こちらから気軽に連絡することなんてできなかった。
そして、ジムの契約更新もしないことにした。
悠貴に会いたくなくて、会ってしまって彼の邪魔になるのが怖くて、ジムにはもう行かないことにした。
休会というのは、あのジムは永久会員システムで、一度入会すると契約をやめても会員資格を失うわけではないからだ。
スタッフさんの説明によれば、いつでもビジター利用はできるし、また月契約に戻っても大丈夫ですよとのことだった。
「結局別れちゃったってことね」
「いや、そもそも付き合ってなかったから」
苦笑しながらチョコレートをつまむ。
「どっちにしろ、私ならそんないい感じの仲の人を逃がしたりしないわよ」
「理世は情熱的だね」
「そうやって茶化すけど、瑠衣は本気で彼のこと好きだったんでしょ。どう考えても優良物件の吉光さんをフッちゃうくらいに。ずっと憧れてた結婚から遠のいたとしても彼のことが忘れられないって、そっちの方が情熱的だと思う」
「そうかな」
「なのに、なんで冷静に身を引いちゃうかねぇ」
言葉に出されると、自分でも後悔を感じてしまう。
本当に、どうして身を引いちゃったの?
でも、その後悔はもうやめようと決めたところだった。
「……好きだからだよ」
言いたい放題の理世に、自分を納得させるために出した結論で反論する。
「本気で好きだから、彼が幸せになる邪魔をしたくない」
「うん?」
「悠貴が幸せなら、そこに私がいなくてもいいの」
「……へー」
最初は悠貴と離れたくなくて、スケーター復帰の話題を切り出せなかった。
それでもやっぱり彼には好きなことをしてほしくて、悩んだ結果いつの間にか必死に背中を押していたのだ。
「悠貴と恋ができて楽しかった。その思い出があれば、私は前を向いて生きていける」
彼と出会って一緒にトレーニングして、自分磨きを頑張ることで自信を持てるようになった。
自分にとっての幸せがなんなのか、見つめ直すことができた。
……そして最後に、お別れが寂しくないように思い出だって作れた。
もう、それで充分。
悠貴からもらったものを思い出しながら、そう自分に言い聞かせる。
「……はああ」
ふと、理世が呆れた顔で大きくため息をついた。
「……理世?」
「なに真顔で気持ち悪いこと言ってんのよ」
「えっ」
「鳥肌立ったわ」