婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
第20話:「――ああ、そうかもなぁって思った」
悠貴の家を訪ねた帰り道、ひとりとぼとぼと駅に向かって歩いていた。
玲央から話を聞いた直後。
話したいことがある、と悠貴に連絡したのが一時間前。
彼から返事が来ることはなく、玲央が連絡しても私と同じ結果だった。
悠貴に会いたい気持ちを抑え切れずソワソワする私を見ていられなくなったのか、玲央は悠貴の家の住所を教えてくれたのだ。
玲央は、悠貴に会いに行くのなら帰るよ、と私の家を出た。
いてくれていいのにと止めたけど、満足そうな顔をしながら首を横に振った。
その代わり、ちゃんと悠貴と仲直りしてね。
そう言って笑った玲央は、最初からこれだけを伝えたかったんじゃないかと思った。
きっと、そのために家に来てくれたんだ。
玲央の計らいに感謝しながら悠貴の家に行ってみたけど、しかし彼は留守だったのだ。
私がジムに通っていた時と変わっていなければ、金曜日のこの時間帯はシフトに入っていなかったはずだ。
しばらく待ってみたけど、悠貴は帰ってこなかった。
どこか出かけているのか、今日は帰らないのか。
最寄り駅についた時にスマホを見てみたけど、連絡は返ってきていない。
悠貴からしたら、私なんかと今さら話すことなんてないのかもしれない。
それもそうだ、悠貴の思いも知らずに突き放してしまったのは私の方なのだから。
……でも何年も前から思い続けてくれたなんて、言ってくれなきゃわからない。
その文句だって、言いたいのに!
連絡も取れない、どこにいるかもわからない。
諦め切れずに最後にジムへ電話してみたけど、悠貴はビル内にはいないらしかった。
帰ったところは見ていないけど、姿が見えないのでもう退勤したかもしれないとのことだった。
仕事を終えて帰ったのがすぐさっきなら、もう少し待っていた方がよかったかも。
でもスタッフさんに彼がいつジムを出たかを聞くのもおかしいので、詳しい動向は聞けなかった。
……もう、このまま帰るしかない。
夜の電車の車内は疲れた空気が蔓延していて、高架化した線路を静かに走っていく。
地上より高い位置を流れていく外の景色は、ほとんどがビルだった。
暗闇の中にポツポツと建物の灯りが浮かんでいる風景を見ていると、ハッと思い当たることがあった。
つい最近、こんな風に少し高いところから都会の景色を見たことがある。
ジムの屋上だ。
悠貴は、そこにいるのかもしれない。
私にしか教えていない場所なら、彼がそこにいたとしてもジムの人は誰もわからないはずだ。
それで姿が見えないと言ったのかも。
瑠衣さんはいつでも来ていい。
その言葉が今も許されているのかわからないけど、私はジムへ向かうことにした。