婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
ジムに着き、非常階段から屋上へと出る扉を開ける。
冷たいビル風が吹く中で、遠くの端の方で欄干に手をついて空を見上げている悠貴がいた。
前髪が風に吹かれて乱れて、それでも気にしていないようだった。
久々に見た悠貴に、鼓動が速くなっていく。
同時に、寂しさや申し訳なさが込み上げてきて苦しくなる。
張り詰めた気持ちと空気の冷たさに呼吸もままならないまま、ゆっくりと悠貴に近づいていく。
パンプスの音で気が付いたのか、悠貴はこちらを見て髪をかき上げた。
驚いて、そこにいるのが本当に私なのかよく見ようとしている様子だった。
なにから話したらいいのかわからなくて、それでもとにかくなにか声をかけたかった。
「ごめんね」
悠貴は欄干から手を離し、こちらに体を向けた。
「悠貴の気持ち、わかったようなフリして全然わかってなかったね」
ふたりの間にある距離はそこまでないのに、悠貴がなにも喋らないからずっと遠くにいるように感じてしまう。
それがもどかしくてもう少し近づこうとすると、悠貴がやっと口を開いた。
「じゃあ、今はわかる?」
ピタ、と足を止める。
もう悩んだり、迷ったりしない。
「わかる」
「ほんと?」
「うん。それで、私も悠貴と同じこと思ってる」
悠貴の夢や好きなことはもちろん尊重したい。
それでも、私は一緒にいたい。
悠貴にとって邪魔になるかもしれないから、身を引くのではない。
私がいるから頑張れると言ってもらえるように、そばで全力で支えればいいんだ。
「聞いて欲しいことがあるの。私――」
「待って」
制止されて、言われるがままに言葉が止まってしまう。
高まった気持ちを吐き出せなくて胸の中で処理に困っていると、悠貴はポケットからなにかを取り出して私に見せてきた。
前にも見たことがある、車のキーだ。
「行きたい場所があるんだけど、付き合ってくれる?」