婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
ドーム型の屋根の下にあったのは、小学校の校庭くらいはありそうな程の大きなスケートリンクだった。
以前クリスマスマーケットで見たリンクとは比べ物にならないほどの規模で、どこまでも広がる真っ白な氷の膜に圧倒される。
テレビや動画で見たことはあっても、実際に来てみるとまた印象が違う。
冷ややかでスッと透き通る空気が、肺を満たしていく。
呼吸するたびに、体の中まで目が覚める様に冷え、感覚がクリアに冴えわたるようだった。
奥の物置でなにやら探していた悠貴が戻って来る。
「どうしたの、そんなに珍しい?」
「うん、こんなに広いんだなあって」
「誰もいないから、余計そう見えるのかもな」
見慣れているから当たり前だけど、悠貴は落ち着いた様子でそう答えた。
「不思議だね、なんか神秘的な感じもする」
「別に、ただ白いのが広がってるだけだろ」
「ちょっと、せっかく氷の世界に浸ってるのに……」
あまりに趣のない悠貴に抗議しようと顔を向ける。
よく見ると、手にスケート靴を持っているのがわかった。
鋭いブレードのついた靴に目を奪われた後、ゆっくりと悠貴の顔に視線を移した。
「……滑るの?」
ここに連れてきてくれた時点でなんとなくわかっていたけど、実際にその時が来ると緊張してしまう。
「瑠衣さん言ったでしょ、俺が滑ってるところ見たいって」
確かにそう言った。
悠貴がスケーターに復帰するのを後押ししたくて、彼に好きなことをやってほしくて出た言葉だった。
純粋に、普段淡々としている悠貴が氷上で見せる様々な感情を見たいという気持ちもあった。
「見てて、瑠衣さんは特別だから」