婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
第22話:「全部欲しいだけだよ、悠貴の全部」
スケートリンクを後にしてやって来たのは、街から外れた少しだけ山の方。
スキーやキャンプを楽しむ人たちが宿泊する、ちょっと良いキャンプ施設――いわゆる高級コテージだった。
辺りにはふかふかとした雪が積もり、ライトアップされたログハウスの様なコテージが点在している。
少し田舎っぽい雰囲気と、スタイリッシュなデザインのログハウスが不思議とマッチしていて、どこか外国の町みたいでかわいい。
もう一個行きたいところがあるんだけど、と車を雪深い道へと走らせた悠貴には少し驚いたけど、こんな素敵な場所があるんだと知ってもっと驚いた。
「少し前に作られたらしくて、気になってた」
「悠貴もこういう場所、気になるんだね」
「……どういう意味?」
大きなスケートリンクを「ただ白いだけ」と称した悠貴が、首を傾げる。
オレンジ色に近い木材で作られたログハウスは、こんなに寒い長野の冬でも温かみを感じさせてくれる。
木の枠で囲まれたガラスの扉に手をかけながら、悠貴が呟く。
「あれに似てない? ヘクセンハウス」
「え?」
「屋根はチョコレート、窓ガラスは飴細工……」
「うん、そうかも……!」
前に悠貴とクリスマスマーケットに行った時、お菓子の家をドイツでは「ヘクセンハウス」と呼ぶことを話した。
「覚えてたんだね、私の話」
「あんだけ楽しそうに話されたらな」
何気ない話を覚えてくれている。
それがこんなに嬉しいことだって、彼がいなかったら気づかなかったかもしれない。
「帰ったら玲央に写真を見せてあげなきゃ。あの子キャンプも好きだから、きっと行きたい!って言うよ」
「そうだな」
ここへ向かう車の中で、玲央に悠貴と会えたことを連絡した。
心配してくれていたみたいで、電話をしたらすぐに出てくれた。
「悠貴と会えたよって言ったら、焼き肉でいいよって言われた」
「聞いてた。多分俺に言ったんだと思う」
「え、そうなの?」
「あいつの口癖みたいなもん。消しゴム借りただけでそう言ってた」
「へえ」
玲央らしいと思いつつ、ふたりがどんな風に友人として学生生活を送っていたのか、気になってくる。
「……今回ばかりは高級焼肉だな」
そう呟く悠貴に、彼と弟の絆を感じて微笑ましい気持ちになったのだった。