婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

 ログハウスの中は、案外現代的な造りになっていた。

 外から見ると一階建てに見えたけど、実際にはロフトがついている。
 下にもベッドルームはある。

 でも、ロフトに上がって寝るのも秘密基地みたいで楽しそうだ。
 
 ログハウス特有の木の温もりを損なわないように、家具も木でできたものや暖色系の物で統一されていた。

 至る所にある北欧デザインの小物や布製品がかわいくて、ついキョロキョロしてしまう。

 そんな何もかも新鮮なログハウスの中で特別目を引いたのは、大きな暖炉だった。
 さっき悠貴が準備してくれて、中ではパチパチと音を立てて炎が揺らめいている。

「あんまり近づくと火傷するぞ」

 オレンジ色の炎をしゃがみ込んでじっと見ていると、悠貴に笑われてしまう。
 彼は暖炉から少し離れたところにあるソファに座って、ただ私のことを見ているようだった。

「だって暖炉だよ、初めてだよ。火って怖いと思ってたけど、案外落ち着くんだね」
「そんなにテンション上がる?」
「うん、なんで悠貴は普通なの? もしかして長野の家って、暖炉があるの普通なの?」
「さあ。少なくとも俺の近所の家に煙突はついてないな」
「じゃあ、サンタさんはどこから入って来たの?」
「多分、換気扇」

 現実味のあるようなないような、どこか浮かれた会話が続いていく。
 こんな非日常の世界に、悠貴と一緒にいるのだから当然だ。
 
 灯りは最小限にしているから、暖炉の炎が揺らめくたびに部屋の中の暗闇とオレンジが混ざる。

「瑠衣さん、もう充分あったまっただろ」
「あったまったけど、もうちょっと見たい」

 不規則な火の動きが面白くて、ついつい目が離せない。
 でも少し熱いかも、と思い始めた時だった。

「だめ」
「え、あ、ちょっ……」

 いつの間にか近づいてきた悠貴に、猫みたいに脇に手を添えられて持ち上げられた。

「俺のこともかまって」

 そのまま正面から抱きかかえられて、びっくりして彼の肩にしがみついてしまう。
 近くなった首筋から、悠貴の匂いがする。

 いつもの爽やかなボディーソープの香りは薄くて、彼自身の匂いが濃くてドキリとする。

「何して……! 重いでしょ、降ろして!」
「全然」

 悠貴は私を抱えたまま、さっきまで自分の座っていたソファに腰を降ろした。
 両足を左横に投げ出して、彼の太ももの上に対面で座る形になってしまう。

 私の方が目線が高くなって、ほんの少し悠貴を見下ろす。

 黒い瞳と目が合って、逸らせなくなると、彼の手が伸びてきた。
 上から下に、頭を撫でられて、頬を撫でられる。

「ん……」

 彼に触れられた場所は、どこだって気持ちが良い。
 頬で止まった手に自分の手を重ねて、大きくて暖かい手の平にスリ、と頬ずりする。
 
 その瞬間、悠貴のまとう空気が変わったような気がした。
 
 重ね合わせた手はそのままに、指で耳をくすぐられる。

「あっ、ん」

 耐える様にギュッと目をつむると、クス、と笑う声が聞こえた。

 ほんの少しの笑い声でも、悠貴が余裕がないことはわかってしまった。

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