恋するお弁当箱
1 エレベーターでピクニック
 静谷咲穂(しずや さほ)は冬の夜のデパートを、人を縫うように早歩きで移動していた。
 仕事が押してしまって、すでに七時。予定より遅れている。間に合うかどうか、いや、間に合わない公算のほうが高い。
 目当ての売り場につくと、素早く視線を走らせた。
 棚の一部ががらあきとなっており、嫌な予感に眉を寄せてその棚に近付く。

『限定! ミャミャー弁当箱 980円』
 値札の表示されたそこには空洞が広がっており、咲穂はがくりと膝を突いた。

「間に合わなかった……」
 予約はできず、当日販売のみの限定お弁当箱。小さい頃から好きだった猫のキャラクター、ミャミャーのお弁当箱。どうしても手に入れたかった。
 メーカーは転売を見越して大量に生産していたというが、それでも売り切れてしまったようだ。

「頑張って来たのに」
 咲穂は未練がましく棚の奥をのぞきこむ。と、隣の列のお弁当箱の奥に、違う色が混ざっているのが見えた。

 もしかして。
 わずかな希望とともにそれを引っ張り出すと、ミャミャーが描かれたお弁当箱が現れた。ベージュ色の下地に、ピンクのリボンをつけ同色のベストを羽織った白猫が描かれている。

「神様、ありがとう!」
 咲穂は思わずそれを抱きしめ、天を仰いだ。
 ミャミャーに限らず弁当箱の収集を始めて十四年、二十九歳にしてこれほど神に感謝したことはない。
 咲穂はミャミャーの弁当箱を抱きしめたまま、るんるんとレジに向かう。周りに誰もいなかったらスキップのひとつもしているところだ。
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