恋するお弁当箱
「すみません、ミャミャーの弁当箱が今日発売だと聞いたのですが」
 耳に心地の良い低音が聞こえてそちらを見ると、スーツを着た男性が店員に話しかけたところだった。
 三十を少し超えたところだろうか。整った髪に隙のないスーツ姿。きりりとした目元にまっすぐな唇が好印象だ。

「申し訳ございません、好評につき完売となっております」
「そうですか……。他の店舗にもないでしょうか。姪の誕生日プレゼントに欲しいと言われてるんです」
「すみません、系列店でも売り切れていると聞いています」
「そうですか、ありがとうございます」
 男性は礼を言って引き下がるが、その顔には落胆があった。

 どうしよう。
 咲穂はお弁当箱を抱く手に力を込める。
 うーん、と悩んだものの、結局は男性の背を追って走った。

「あの!」
 声をかけると、男性が振り返る。
「よかったらどうぞ!」
 ミャミャーのお弁当箱を差し出すと、男性は目を丸くして咲穂を見る。

「あなたが買おうとしていたのでは?」
「いいんです。聞こえちゃったんですけど、姪御さんが楽しみにしてるんですよね。だったら、使ってほしいです」

「しかし……」
「私、ミャミャーは小さい頃から好きだったんです。お弁当の時間をミャミャーと一緒に楽しんだように、姪御さんにもミャミャーとのお弁当タイムを楽しんでほしいんです」
 咲穂がそう告げると、彼はまぶしいものを見るように目を細めた。
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