恋するお弁当箱
 病院で診察を終え、異常なしの診断をもらった咲穂は、課長、賢翔とともに会社に戻った。
 会議室で咲穂が事情を離すと賢翔は怒りで眉間にしわを寄せていた。課長もまた怒りをこらえて口がへの字に曲がる。

「高壺さんは明日、出勤してきたらすぐに事情聴取をする。静谷さんは休んでかまわないからね」
 優しい課長の言葉に、しかし咲穂は首を振った。

「いえ。私もその場にいさせてください」
「いやしかし、ハラスメントの加害者と被害者を同席させるわけには」
 課長は即座に断ったが、咲穂は食い下がった。

「高壺さんにはやわらかく対応してきたつもりでした。それが彼女を増長させていたんだとしたら自分にも原因があります。この際、はっきり彼女に迷惑だったことを伝えたいんです」
「できれば私も同席させてください。第三者がいたほうがいいでしょう」
 うーん、と課長は即答しない。

「お願いします。でないと自分の中のけじめがつけられないと思うんです。このまま、怖いままで終わりたくありません」
 そう語る咲穂の手は震えている。閉じ込められていた恐怖はまだ消えていない。このまま怖かった、で終わったらずっと傷付いたままで終わりそうで、そのほうがもっと怖い。

「わかった、そこまで言うなら。織山さんも、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます」
 答える賢翔の目には怒りが燃えていた。



 翌日、出勤した咲穂は朝礼ののちに課長に呼ばれた。
 会議室に行くと、そこにはすでに賢翔が来ていた。
 彼がいる、ただそれだけで心強い。
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