【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~

22 フィンとの再会

 翌日から私は活動し始めた。
 申し訳ないけれどリーフには宿に残ってもらう。
 昨日の今日で、街の中とはいえ歩き回らせるには心配だったからだ。

「さて、と」

 頼ろうとしたのはフィン様だけど、街での仕事や住む場所さえ見つかればそれでいい。
 いつまでも宿には泊まれない。数日であっさりと資金は尽きるだろう。
 どうにかして早いうちに、次へとつながる何かを見つける必要があるのだ。

 私は街を巡りつつ、様々なものに目を配る。
 たまに衛兵らしき人が街を歩いているけれど、その中にフィン様の姿はない。
 たった一度、ほんの少し会っただけとはいえ、彼は美形だった。
 もう一度見た時に忘れているような人ではない。
 私の場合、命を助けられたこともあってか、むしろ彼の印象は強く残っている。
 今でも、いつでも思い出せるほどだ。よほど出会いが鮮烈だったのだろう。
 なので街ですれ違えばわかると思うのだけど。
 だからといって街で出会えるとは限らない。

 やっぱり騎士だし、領主の館に務めているだろうか。
 特別なアーティファクトを持ち出すことが許されて、魔獣討伐なんて重要で、危険な仕事を一人で請け負っていた人物なのだ。
 領主に仕える騎士レベルなのは間違いないと思う。
 主君を持たない自由騎士という線もなくはないのだけど。
 でも、バルナーク領から来たことは聞いている。

「仕事探しではなく、フィン様捜しなら領主様の屋敷を訪ねるしかないのよね」

 街の巡回をしている線もあると思ったが、今のところ見かけない。
 アポなしで突撃するしかないか……。
 騎士だけがいる場所って近くにあるのかな。

 実は騎士の生活について私はそこまで詳しくない。
 専用の護衛騎士なんて夢のまた夢。
 侯爵夫人になってからも護衛というより監視がついていた。
 そんな監視役の騎士と友好な関係などはなく。
 ゆえに漠然とした知識しかない。

 それでもわからないからってあきらめる選択肢はない。
 リーフを守り、育てる『母親』となることを決めたのだ。
 なりふり構わず突撃……もちろん礼儀を尽くしつつ……してやろう。

 私は領主の舘へと向かった。
 あやしまれないように正面から堂々と近づく。

 屋敷を守る騎士が出てきてくれた方が都合はいい。
 彼らに話を聞けるからね。
 でも、とくに呼び止められることもなく領主屋敷の、門の前まで来てしまった。
 ここまで来てしまうと、まるで伯爵を訪ねてきてしまったようになってしまう。
 用があるのは伯爵ではなく騎士であるフィン様だけなのだが。

「……なんだ? どうした?」

 流石に門の前まで来てしまうと門番がいて、訝しそうに話しかけられる。

「ええと。すみません。私、アーシェラという者なのですが……」

 偽名を名乗ろうかと思ったが、フィン様を訪ねてきているのに偽名を名乗ったら彼も『誰それ』となるしかないだろうから本名を名乗る。

「……アーシェラ?」
「はい。実は先日……といっても三ヶ月ほど前のこと。冬に入る前、森でバルナークの騎士に助けられたことがあったのです。そのお礼もあり、あと少し話したいこともありまして」
「助けられた?」
「ええ、実は魔獣に襲われているところ、フィン様という騎士に助けられたのです」

 私がフィン様の名前を出すと、門番の人はハッとしたような顔をした。

「こちらにフィン様という騎士はいらっしゃいますか? どこへ行けば会えるかわからず捜しておりまして。私はこの街の宿に泊まっております。お会いすることが難しいならば出直します」
「フィン様を訪ねてきた……? フィン様が騎士?」

 そこで門番の男性は首をかしげた。フィン様はこの屋敷にはいないのだろうか。

「はい。魔獣を倒していただいた、私と叔母の子の命を助けていただいた騎士様です」
「……それは槍を使う、青髪の、か?」
「……! はい! そのお(かた)です!」

 どうやら門番はフィン様に心当たりがあるようだ。
 私の姿を値踏みするように観察する門番の男性。
 視線はいやらしいものではない。
 門番らしく私の為人(ひととなり)を見極めようとしているようだ。

「……何をしに、いや。ちょっと待ってくれ」
「は、はい」

 門番は更なる質問をしようとしたが思いとどまった様子で口を(つぐ)んだ。
 少しだけ考えたあと、そこで待っていてくれと言い残し、屋敷へと駆けていく。

 しばらくすると門番さんが戻ってきた。
 その隣には、かつて出会った青髪の騎士様を連れて。

「あっ」

 三ヶ月前にたった一度だけ。
 ほんの少しの間しか一緒にいたことのない人。
 だけど、その顔を私は覚えていて。それは私だけではなかった。

「アーシェラさん……本当に?」
「フィン様……」

 きちんと私のことを認識してくれている。
 彼は私を覚えていてくれたのだ。
 なんだかそれだけで胸の奥が温かい気持ちになる。
 門番の男性が鉄柵の門を開いて、そこからフィン様が出てきてくれた。

「お久しぶりです、フィン様。申し訳ございません、急にお訪ねして」
「いや、それは構わないが」
「騎士が働くならばこの屋敷かと思い、途中で人もおらず、門番の方に声を掛けたのですが」
「そうか。まさか、キミから訪ねてきてくれるとは。それにリーフは元気だろうか」
「ええ、リーフは元気です。この街に一緒に来ています」
「そうなのか。また会いたいな。それで? キミはいったいなぜ来てくれたんだ?」
「それは……実は、その」

 どう言ったものか。図々しい頼みをしにきたのだ。
 でも、私は決めたのだ。リーフを守るためにはなんだってしてみせると。

「私とリーフはあの村を出ました。ですから今、働く場所を、住む場所を探しています」
「…………」
「フィン様には迷惑だと思いますが、他に頼れる方が思い浮かばず、ここまで来てしまいました。ただ一度会っただけ、それも、ほんの少し言葉を交わしただけの縁を頼るのは申し訳なく思いますが。どうか、お願いいたします。私に働き先を、リーフと暮らす場所を、紹介していただけないでしょうか」

 フィン様の目を見て真剣に願う。
 私が用件を離すと彼は門番と目を見合わせる。

「どこででも働く気です。あの時は話す機会がありませんでしたが、私は読み書きもできますし、ある程度は貴族家での作法も学んでいます。それに農村で暮らしていましたので掃除・洗濯等の仕事も苦ではありません。それに私は以前話した【植物魔法】がありますので、ある程度の足がかりさえあれば、きちんと生活もできると思います。なので、しばらくの間だけどうにか、」
「ちょ、ちょっと待った」

 私がなんとか自己アピールを繰り広げているとフィン様によって止められた。

「まず村を出たのかい、二人で?」
「はい。その、事情がありまして」
「そうか。それを聞くのもいいが、とりあえず今は働き口と住む場所を探していると」
「はい、そうです。それでフィン様を頼らせていただきました」
「……そうか。それでリーフは今、どこに?」
「街の宿で待ってもらっています。私一人で街を歩き、働き口やフィン様を探していました」
「わかった。リーフが安全なら今から話をしようか。面談をして、よければこの屋敷で働いてもらう」
「えっ、それはその」

 私はフィン様の後ろの屋敷を見る。そこは領主が住む屋敷のはずだ。
 そこで働く者をフィン様の一存で決めていいのか?

「何か気になることがあるかい? 気にせずに言ってくれ」
「……はい。その、お言葉はありがたいですし、働かせていただけるなら私も精いっぱい働くのですが、そのようなことをご当主様、領主であり屋敷の主人であるバルナーク伯爵様に許可を頂かなくてもよいのでしょうか……?」

 フィン様は騎士の中でも偉い立場なのだろうか。
 あれだけの実力があるのだ。
 どこでだってよい待遇を受けられるのかもしれない。

「バルナーク伯爵の許可、か。そうだな。では、こうしよう」
「はい?」

 フィン様はそう言って、居住まいを正してから続ける。

「私、フィン・バルナーク伯爵(・・)が今日からアーシェラさんを雇い、またその養い子であるリーフと共に、我が屋敷で暮らすことを許可する」
「え」

 バルナーク、伯爵⁉ フィン様が⁉

「フィン様が……バルナーク伯爵、ご本人……?」
「ああ、そうだ。騙すつもりはなかったんだけど、あの時は名乗りづらくてね」

 私はサッと血の気が引いた。
 騎士だと思っていたから、まだ知り合いの態度を取れたのだ。
 騎士だって市井の民からすれば身分が上ではある。けれど、ずっと近い存在だ。
 でも伯爵となれば話が全く違う。
 あろうことか、ただの民が伯爵に働き口を直談判したことに。

「申し訳ございません! とてつもない御無礼を!」

 私はその場で両膝を地面に突き、頭を下げた。

「待ってくれ! いいんだ、問題ない、俺が認めているんだから! 気にしなくて、かしこまらなくていい! アーシェラさん、立ってくれ!」

 フィン様が慌てて私に駆け寄って腕を引いてくれるが。

「し、しかし。伯爵様であるとは思っておらず……」
「俺が黙っていたんだから仕方ない! キミは俺のことを騎士だと思っていたんだろう? 今の言動でそれは証明されたも同然だ! 俺を伯爵と思って近づいてきたのではないとわかっている!」
「そ、それは、はい、その通りですが」
「すまない。こんなことをさせるつもりはなかったんだ。アーシェラさん、どうか立ってくれ、話をしよう。安心してほしい。リーフとキミを迎えるぐらいはできるから」

 フィン様の手で立たせてもらい、私は屋敷の中へと案内された。
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