【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~

02 前世の知識と【植物魔法】

 結婚生活の一年間は追い込まれるような焦燥感の中で研究を続けていた。
 大きな成果を出さなければならないと。
 そうしなければ私の存在価値がないのだと。
 でも今は……未来への希望のように、どこかワクワクした気持ちで魔法を行使できる。

 授かったギフトには、残念ながら細かい説明はない。
 異世界転生したといってもステータス画面がすべてを教えてくれるようなこともなかった。
 だから、漠然と判明しているギフト名だけを頼りに私自身ができることを探っていくしかない。

 それでもギフトの名は【植物魔法】だ。
 その名が示すものの多様さは、どこまでも希望に満ちあふれている気がする。
 本当になんだってできそうだ。

 植物には当然、野菜類はもちろん、三大穀物だって含まれるのでは?
 私のイメージが優先されるとすると、ひょっとしたら範囲も広がるかもしれない。

 現時点で判明している【植物魔法】の特性は二つ。

 一つ目の特性は植物の『生成』。
 これだけで破格のように聞こえるが、私の認識している植物に限定されるらしい。
 『超回復を引き起こす月の花!』なんて、ファンタジーな不思議植物は作れないようだ。
 そうすると私が出来るのは既存の植物の生成に過ぎない。
 今、すでにあるものを改めて作ったって、ウィリアム様が望むものはできなかったのだ。
 ニンジン農家がある横で、手元に数個のニンジンを生成できたところで、と。
 出力の問題さえなければ一度に大量生成なんてこともできたかもしれないが、それも無理だった。

 【植物魔法】、二つ目の特性は植物の『成長促進』。
 こちらも、如何にも大規模な農業に利用できそうなのだが、出力が低すぎた。
 とても農地でいかせる規模の魔法は行使できず、こちらの分野でも役立たず判定だった。

 できることはせいぜい、手元の鉢植えに生えた植物の成長を促す程度。
 また見上げるような樹木レベルの成長はどうも促せないらしい。
 できるのは背の低いところまでの成長で、それがまたウケが悪かった。
 背の高い果樹を欲しても、実を取れるレベルまで成長させることができないのだ。
 ある程度まで魔法で育てたあとは、自然に任せ、時間をかけて育てていくしかない。
 だが、私個人が使うぶんには既存の植物で少量であっても何の問題もない。

「まずは前世でもなじみ深くてイメージしやすくて、食べられそうな……」

 食べ物、植物、イメージしやすい、個人で使える……。
 イメージを固め、私が生成した植物は……!

「──ニンジンよ!」

 前世、現代日本人にもなじみ深いオレンジ色のそれ。
 最もポピュラーな野菜の一つだ。
 当然のように成功する私の【植物魔法】。
 野菜もやはり植物扱いでいいらしい。
 たぶん、イメージが現代寄りだから、本当に現代で採れるタイプのニンジンが生成された。

「……よし!」

 とりあえず、これができるならこの先、食べ物に困って飢え死ぬことはなさそう!
 それだけで、この国で生きていく希望が生まれる。
 私は手の中に生まれたニンジンを大切に抱えた。

 かじりついてみる。
 ちょっと甘いかも? まるで収穫したばかりのようだ。
 これは、本当に採れたて判定の生成物なのかもしれない。

「おいしい」

 確かに侯爵家の財政を動かすような、大規模な農業にはいかせないかもしれない。
 でも今、この【植物魔法】は私にとって間違いなく希望の象徴だった。
 根なし草で、お金がなくなっても食べ物だけは自力で調達できる!
 食べられるなら生きていける! ということだ。
 いきなり家を追い出された私には、なんという希望の光であることか。

「……前世の知識も組み合わせたら、もっといろいろとできるんじゃ?」

 といっても、そこまで私は知識豊富というワケでもない。
 ただ、夢は広がる。
 どこかに畑さえあれば確実に自給自足ができるわ。
 これまでとは違った試行錯誤もできる。
 何より成果を出さないと認められないとか、追い込まれた状況じゃないなら、もっと。
 となると……私が暮らすべき場所は華やかな都会じゃあない。
 王都になんて居ても、相変わらず〝使えないギフト持ち〟に過ぎないだろう。

「小規模農家とか、小さな村暮らし! そこが私の人生の活路だわ!」

 幸い、前世は田舎育ち。木造家屋も虫もドンと来い!
 元侯爵夫人であり、仮公爵令嬢の私だが……田舎暮らし、目指します!


 宿に泊まった翌日。
 【植物魔法】に活路を見出した私は乗合馬車に乗って王都を出た。
 王都にいつまでも居てリンドブルム公爵家に見つかってはたまらないからだ。

 私は、亡くなった母の妹、ヘレーネ叔母さんが暮らす家を目指すことにした。
 十歳になるまで私は市井で暮らしていて、少し叔母さんと手紙のやり取りもしていた。
 母と一緒に、一度だけ叔母さんの家を訪ねたこともあるので場所は知っている。
 残念ながら母方の祖父母もすでに亡くなっている。
 公爵家側の血縁を除けば、私にとって叔母さんが唯一の親族になる。

 ……ただ、ヘレーネ叔母さんから母への印象はあまりよくなかったようだ。
 放逐されていたのだから、母は公爵の愛人などではなかったと思うけれど。
 世間的にはそうではないことが私にもわかる。
 そんな母が身内に居ることでヘレーネ叔母さんは苦労したかもしれない。

 でも、今の私には他に行くあてがない。
 拒絶されるかもしれないけれど、最初に身を寄せる先としては真っ当な選択肢だろう。

「……ん?」

 乗合馬車には複数人が乗り合わせている。
 そこでチラチラと視線を向けられていることに気づいた。
 ……もしかして目を付けられているのかな。

 売りに出せるような宝石類は最初から持っていないし、身につけていない。
 私の服装は一応、馬車に乗る前に市井の民に溶け込むように整えている。
 もったいないけど着ていた貴族夫人の服も売り払った。
 今は少しでもお金が欲しいからね。

 私の髪色は目立たない茶髪だ。
 十分に周りとなじんでいると思っていたのだけど。

 ……ああ、この髪の色もきっとリンドブルム家で嫌われていた理由だろうな。
 なにせ、リンドブルム家の皆様はキラキラとした金髪だった。
 公爵も公爵夫人も金髪なものだから、兄も姉も妹も全員に金髪が遺伝していたのだ。
 並ぶと私だけが茶髪の公爵一家のできあがり。
 もう浮きまくりだったなぁ。

 ちなみに異世界らしく髪色はカラフルなもので、青髪や赤髪が普通にいる。
 そんな中で私の茶髪だ。地味。その一言ね。
 不安になるが、ここは堂々としていよう。
 変にここでキョロキョロとしたら余計に不審感が増してしまう。
 私はチラチラと見てくる人にあえて目を合わせて、曖昧に微笑んだ。
 そうすると、ふいっと視線を外される。
 そうよね、こちらに見られていないって思うから堂々と見ちゃうのよね。
 女の一人旅というか、移動ということで関心を引くのだろうか。

 仮に暴漢に襲われたら生活魔法の応用で多少の戦闘……は、無理ね。
 きっと恐怖で体がうまく動かなくなるに違いない。そういう経験も積んでいないし。
 なので楽しく観光気分ではなく、周囲の視線を警戒しつつ、それでいていさかいにならないように自然に、堂々と振る舞おう。
 前世分の経験値が私の視野を多少は広げてくれる。
 しばらくすると、周囲の好奇の視線は霧散(むさん)していくのだった。

 母の実家、ヘレーネ叔母さんの家は、王都からそこまで絶望的に遠くはない。
 母がかつて公爵家でメイドとして働いていたことからわかるように、残念ながらリンドブルム家の領地内である。
 彼らに関わりたくないと思いながら、彼らの領地に流れ着くのはどうかと思うが……。
 他に行くあてもないのだから仕方ない。

 乗合馬車を乗り継ぎ、移動すること四日ほど。王都からずいぶんと離れたものだ。
 この国の田舎ならではの空気感。
 道はコンクリートじゃない。踏み固められた土の道だ。
 乗合馬車が叔母さんの家の前に止まってくれることもないので、最寄りで降りたあとは徒歩移動。
 うろ覚えの道であるうえに、スマホの地図ナビゲートもなし。これは中々に大変ね。

 手土産を用意していこうかと思ったのだけど、急に訪ねていって手土産を渡されたところで絆されるかというと違う気がしたのでやめておいた。
 それなら、むしろお金をそのまま渡した方がマシだろう。
 手切れ金として渡されたお金と、貴族の服を売って得たお金は、今の私のなけなしの財産だ。
 そう簡単に扱えるものでもないが……暮らす場所を分け与えてもらえるなら必要経費。

 図々しい願いだとはわかっている。
 あのまま王都に居て働き口を探した方がよかったかもしれないとも。
 でも、もう行動してしまったのだ。
 ちょっと前世の記憶を思い出してテンションが上がりすぎてしまったかもしれない。

「あはは……」

 離縁のショックとか、たぶん前世の記憶ショックで流されているだけだろうな。
 落ち着いたらへこんで泣きそうだ。でも、できる限り笑っていよう。
 落ち込んでいたって周りは助けてくれないものなのだ。
 むしろ笑う門には福(きた)る。
 明るく活動的な方が人は手助けしてくれるもの。
 最悪はこう、前世の私と今世の私で一人二役して自分を慰めて鼓舞しよう。

「なにせ、私はまだ十七歳!」

 これが今の私の合言葉だ。これ以上なく前向きなフレーズでしょう?
 なんだってやれる気がしてくるし、希望だってありそうな響きよね。
< 3 / 32 >

この作品をシェア

pagetop