【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~
29 二年後
リーフと出会ってから二年が経った。
もう私も十九歳だ。
前世の『七海』の記憶を思い出してからも二年。
とても濃い時間だったな。
バルナーク領に移り、領地の特産品開発に携わってからは一年と少し。
二年目に入り、トマトの量産は整ってきた。
領地で流通させる分と、領外へ売り出す分が一年目より多く確保できている。
前年に希少な作物として少し売り出した影響もあってか、買い手もしっかりいる。
こうなってくると、やはり『伯爵』という身分って大事だなぁ、と思う。
仮に私が農村でトマト栽培を始めたとしても、誰に売れたかわからないだろう。
トウガラシの方は、流石に食べる側に『慣れ』がないと厳しいものだ。
でも、愛好家が一部で生まれているらしく、そちらもきちんと領民たちの収入源になっている。
辛さに慣れればおいしいからこそ前世でも普及したのだ。さもありなん。
バルナーク領でトマトを広めたのが私ということも噂として広まっているようだ。
そのせいで〝トマト令嬢〟なる謎の二つ名がつけられていると知った時はもう。
「あはは! アーシェラがトマト令嬢か!」
「トマトお母さん!」
「その呼び方はちょっと!」
何か違う気がするんだけど? まさかの呼び名すぎる。
どうやらこの国へのトマトの伝来は、やはりまだだったらしい
領地の特産品だが、これは歴史の一つに私かバルナークの名が刻まれたかもしれない。
だって前世で調べたら、そういう人、いそうじゃない? トマト令嬢ならぬトマト夫人とか。
ただ、何だろう?
とても手応えを感じるのよね。需要が想定より多いというか。
たしかトマトって北欧地域で受け入れられるには伝来から二百年はかかったはず。
赤色の実が、ベラドンナという毒のある実と混同されて敬遠されたとかなんとか。
日本でも本格的に受け入れられたのは明治以降だったよね。
なじみのない作物なんてそんなものなのだ。
だから、ここまでうまくいくとは。
そう思って考えていくと、この地であっさりとトマトが受け入れられた理由に気づく。
私のトマトは【植物魔法】で生成したものが最初だ。
それは前世の私の記憶基準で生成されたものである。
つまり〝品種改良した後〟の、おいしいトマトなのだ。
前世では、とても長い時間をかけて人々に受け入れやすく品種改良されたはず。
最低でも、およそ二百年。
それが数世紀分、先取りして手に入っているのが現状だ。
だから、ここまであっさり、この国の人々が食べてもおいしいと広まったのだ。
私、やっちゃっている気がするわねぇ……。
でも、トマトはほら。
前世でも世界で親しまれていた野菜だし?
いつかは必ず広まっただろう、って考えたら、そこまでひどいやらかしではないのでは?
「アーシェラ、どうしたんだい?」
「いえ、少し考え事を。ご心配なさらず。些細なことです」
何はともあれ、だ。
バルナーク領の特産品作り、第一弾は成功したといっていいだろう。
領地がさらに豊かになり始め、とうとう私にも社交の話が舞い込んでくる。
今の私はバルナーク伯爵の婚約者だ。
私も貴族たちがいる場に赴くことになる。
「アーシェラ。これから不安なこともあるかもしれない。だけどキミのことは俺が守るよ」
「フィン様……」
私の不安を察してくれたフィン様がそう声をかけてくれる。
前世では『守る』なんて言葉、何からだなんて考えもした。でも。
今世でこう言われたら、本当に彼が守ってくれるのだと伝わってくる。
魔獣の脅威、命の危険から守ってくれた実績もあるから余計にだ。
また実際、社交界に出る前にフィン様がいろいろと対策を取ってくれている。
「これからのキミのためにも、まずは侍女を雇わないとね。料理人もかな」
「ふふ、そうですね。まずは身の回りのことから」
使用人を徐々に増やしていった。
曲がりなりにも公爵家で教育を受けてきた私が指導する必要も出てくるだろう。
そうすると傲慢な夫人って嫌われるかも? それは嫌だなぁ。
なんて考えていくと、本当にいろいろと大変だ。
でも、リーフとフィン様が一緒なら、きっと大丈夫。
ちょっとだけ、今の三人暮らしが愛おしくてこのまま、なんて思いもした。
でも、いつまでもそういうわけにはいかないことは理解している。
変化していく。
でも、確実に前へと進んでいく。家族で、一緒に。
「宝石ではなく花をドレスに?」
「はい。私の【植物魔法】は花も咲かせることができますから、それを利用します」
いよいよ社交の日がやってくる。
王都で開かれる夜会への招待状が届いたのだ。
宝石が欲しいなんて贅沢を言うつもりはない。私自身も拘りはない。
もちろん、贈られれば嬉しいけどね。
でも、そうは言っていられないのが社交界。
下手な格好をしていけば見くびられる。
私は花で自らを飾ることにした。
社交直前に新鮮な花を咲かせるなんてことも可能。
私の場合、それだと根も生えるけど。
いろいろと工夫のしがいがあるわ。
刺繍し、レースをつけて仕立て直したドレスに花を添える。
仕上げたドレスを試着して、リーフとフィン様に見てもらう。
「どう、でしょうか?」
「とても綺麗だよ、アーシェラ」
「ふふ、ありがとうございます、フィン様。リーフはどう?」
「すっごくきれい! アーシェラお母さん! あ、お母様……?」
「まぁ! お母様だなんて」
教えられたんだろうなぁ。
いずれはそう呼ぶように慣れるため?
でも、まだアーシェラお母さんでいい!
私は、この気持ちを言葉にしていいのか悩んでフィン様を見る。
「はは。俺も『フィンお兄ちゃん』のままだよ。まだいいんじゃないだろうか。このままで」
「そうですよね! でも、お母様と呼ばれることは嬉しいわ、リーフ」
「んー……。フィンお父様、アーシェラお母様、だめ?」
そう言いながら、リーフは私とフィン様を上目遣いで見る。かわいい。
もう九歳なのにかわいくてたまらないままだわ。
この子、一生ずっとかわいいのでは?
そう思って頬を緩ませる私。フィン様は口元を押さえていた。
「フィン様?」
「いや、その、こう。なんと言えばいいのか。とてつもない衝撃だな、と。俺をそう呼んでくれるのかい、リーフ?」
「うん!」
ああ、フィン様はいつも『お兄ちゃん』枠だったものね。
これは、義理の息子に父親と認められた感動の場面だわ!
「フィン様、わかります。すごく……すごいですよね」
私の語彙力が死滅した。
「あはは、そうだな。これは感動、だな」
「ふふ」
本当に私たちは家族になったのだ。
もちろん、正式な手続きはまだ先だけれど。
それでも気持ちはもう家族となっていた。
「じゃあ、リーフ。私たちだけの時と、他の人といる時で使い分けられる?」
「うん! アーシェラお母様!」
「フィン様のことも同じように呼んであげてくれる?」
「うん! フィンお父様!」
「くぅ! リーフ!」
「わー!」
感極まったフィン様が、ぎゅっとリーフを抱きしめた。
彼は嬉しそうに笑っている。
きちんと愛されて、すくすくと育ってくれている。
私はそんなリーフの姿を見るのが、とても幸せだ。
もう私も十九歳だ。
前世の『七海』の記憶を思い出してからも二年。
とても濃い時間だったな。
バルナーク領に移り、領地の特産品開発に携わってからは一年と少し。
二年目に入り、トマトの量産は整ってきた。
領地で流通させる分と、領外へ売り出す分が一年目より多く確保できている。
前年に希少な作物として少し売り出した影響もあってか、買い手もしっかりいる。
こうなってくると、やはり『伯爵』という身分って大事だなぁ、と思う。
仮に私が農村でトマト栽培を始めたとしても、誰に売れたかわからないだろう。
トウガラシの方は、流石に食べる側に『慣れ』がないと厳しいものだ。
でも、愛好家が一部で生まれているらしく、そちらもきちんと領民たちの収入源になっている。
辛さに慣れればおいしいからこそ前世でも普及したのだ。さもありなん。
バルナーク領でトマトを広めたのが私ということも噂として広まっているようだ。
そのせいで〝トマト令嬢〟なる謎の二つ名がつけられていると知った時はもう。
「あはは! アーシェラがトマト令嬢か!」
「トマトお母さん!」
「その呼び方はちょっと!」
何か違う気がするんだけど? まさかの呼び名すぎる。
どうやらこの国へのトマトの伝来は、やはりまだだったらしい
領地の特産品だが、これは歴史の一つに私かバルナークの名が刻まれたかもしれない。
だって前世で調べたら、そういう人、いそうじゃない? トマト令嬢ならぬトマト夫人とか。
ただ、何だろう?
とても手応えを感じるのよね。需要が想定より多いというか。
たしかトマトって北欧地域で受け入れられるには伝来から二百年はかかったはず。
赤色の実が、ベラドンナという毒のある実と混同されて敬遠されたとかなんとか。
日本でも本格的に受け入れられたのは明治以降だったよね。
なじみのない作物なんてそんなものなのだ。
だから、ここまでうまくいくとは。
そう思って考えていくと、この地であっさりとトマトが受け入れられた理由に気づく。
私のトマトは【植物魔法】で生成したものが最初だ。
それは前世の私の記憶基準で生成されたものである。
つまり〝品種改良した後〟の、おいしいトマトなのだ。
前世では、とても長い時間をかけて人々に受け入れやすく品種改良されたはず。
最低でも、およそ二百年。
それが数世紀分、先取りして手に入っているのが現状だ。
だから、ここまであっさり、この国の人々が食べてもおいしいと広まったのだ。
私、やっちゃっている気がするわねぇ……。
でも、トマトはほら。
前世でも世界で親しまれていた野菜だし?
いつかは必ず広まっただろう、って考えたら、そこまでひどいやらかしではないのでは?
「アーシェラ、どうしたんだい?」
「いえ、少し考え事を。ご心配なさらず。些細なことです」
何はともあれ、だ。
バルナーク領の特産品作り、第一弾は成功したといっていいだろう。
領地がさらに豊かになり始め、とうとう私にも社交の話が舞い込んでくる。
今の私はバルナーク伯爵の婚約者だ。
私も貴族たちがいる場に赴くことになる。
「アーシェラ。これから不安なこともあるかもしれない。だけどキミのことは俺が守るよ」
「フィン様……」
私の不安を察してくれたフィン様がそう声をかけてくれる。
前世では『守る』なんて言葉、何からだなんて考えもした。でも。
今世でこう言われたら、本当に彼が守ってくれるのだと伝わってくる。
魔獣の脅威、命の危険から守ってくれた実績もあるから余計にだ。
また実際、社交界に出る前にフィン様がいろいろと対策を取ってくれている。
「これからのキミのためにも、まずは侍女を雇わないとね。料理人もかな」
「ふふ、そうですね。まずは身の回りのことから」
使用人を徐々に増やしていった。
曲がりなりにも公爵家で教育を受けてきた私が指導する必要も出てくるだろう。
そうすると傲慢な夫人って嫌われるかも? それは嫌だなぁ。
なんて考えていくと、本当にいろいろと大変だ。
でも、リーフとフィン様が一緒なら、きっと大丈夫。
ちょっとだけ、今の三人暮らしが愛おしくてこのまま、なんて思いもした。
でも、いつまでもそういうわけにはいかないことは理解している。
変化していく。
でも、確実に前へと進んでいく。家族で、一緒に。
「宝石ではなく花をドレスに?」
「はい。私の【植物魔法】は花も咲かせることができますから、それを利用します」
いよいよ社交の日がやってくる。
王都で開かれる夜会への招待状が届いたのだ。
宝石が欲しいなんて贅沢を言うつもりはない。私自身も拘りはない。
もちろん、贈られれば嬉しいけどね。
でも、そうは言っていられないのが社交界。
下手な格好をしていけば見くびられる。
私は花で自らを飾ることにした。
社交直前に新鮮な花を咲かせるなんてことも可能。
私の場合、それだと根も生えるけど。
いろいろと工夫のしがいがあるわ。
刺繍し、レースをつけて仕立て直したドレスに花を添える。
仕上げたドレスを試着して、リーフとフィン様に見てもらう。
「どう、でしょうか?」
「とても綺麗だよ、アーシェラ」
「ふふ、ありがとうございます、フィン様。リーフはどう?」
「すっごくきれい! アーシェラお母さん! あ、お母様……?」
「まぁ! お母様だなんて」
教えられたんだろうなぁ。
いずれはそう呼ぶように慣れるため?
でも、まだアーシェラお母さんでいい!
私は、この気持ちを言葉にしていいのか悩んでフィン様を見る。
「はは。俺も『フィンお兄ちゃん』のままだよ。まだいいんじゃないだろうか。このままで」
「そうですよね! でも、お母様と呼ばれることは嬉しいわ、リーフ」
「んー……。フィンお父様、アーシェラお母様、だめ?」
そう言いながら、リーフは私とフィン様を上目遣いで見る。かわいい。
もう九歳なのにかわいくてたまらないままだわ。
この子、一生ずっとかわいいのでは?
そう思って頬を緩ませる私。フィン様は口元を押さえていた。
「フィン様?」
「いや、その、こう。なんと言えばいいのか。とてつもない衝撃だな、と。俺をそう呼んでくれるのかい、リーフ?」
「うん!」
ああ、フィン様はいつも『お兄ちゃん』枠だったものね。
これは、義理の息子に父親と認められた感動の場面だわ!
「フィン様、わかります。すごく……すごいですよね」
私の語彙力が死滅した。
「あはは、そうだな。これは感動、だな」
「ふふ」
本当に私たちは家族になったのだ。
もちろん、正式な手続きはまだ先だけれど。
それでも気持ちはもう家族となっていた。
「じゃあ、リーフ。私たちだけの時と、他の人といる時で使い分けられる?」
「うん! アーシェラお母様!」
「フィン様のことも同じように呼んであげてくれる?」
「うん! フィンお父様!」
「くぅ! リーフ!」
「わー!」
感極まったフィン様が、ぎゅっとリーフを抱きしめた。
彼は嬉しそうに笑っている。
きちんと愛されて、すくすくと育ってくれている。
私はそんなリーフの姿を見るのが、とても幸せだ。