恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「──お前さ」

「なに」

「さっき、自分で言ったろ? “ちゃんと大人の女性”だって」

「……言ったけど」

「だったら、覚悟出来てるってことでいい?」


その声が、思ってたより低くて、優しくて、
だけどどこか、熱を含んでいた。


「……なに、覚悟って」

「俺のこと、誘ったの。お前だからな」

「……」



それ以上、言葉は出てこなかった。

夜の静けさと、

彼の体温と、

唇の余韻と、

すべてが、
わたしを無言で追い詰めていく。


気づけば、黒瀬くんの腕が、わたしの腰を引き寄せる。
そのまま、そっと額を重ねるように抱きしめられた。



「──佐伯。……このまま、俺んとこ来る?」



その声があまりにも甘くて、やさしくて、ずるかった。


そんなセリフ、断れるわけがない。


「……ばか」


たったそれだけを呟いて、
わたしは黙って頷いた。


──この夜、たしかに境界線を越えた。



でも一番変わってしまったのは、
ふたりの“関係”じゃなくて、
わたしの“心”だった。
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