ハニートラップ

温い空気が甘くなって、高峰くんを見つめる私の視線が熱を持つ。


期待に噛んだ唇を解いて目を伏せたのに――
高峰くんは、一歩後ろに離れていった。


私の頬から指も遠のく。
触れた余韻を噛み締めるように、高峰くんはさりげなくその指先を握り込む。私の温もりを、確かめるみたいに。


「何を期待したの?珠桜。」


私が目を開ける頃には、高峰くんは意地悪な顔で綺麗に笑っている。
その視線は前と変わらないのに、絶対に私に触れない。


――高峰くんの心なんて知らない私には、それがすごく寂しかった。



“好き”

――と、言ってしまえばいい?

胸の奥から湧いた衝動を口の中に留めておく。
閉じた唇が僅かに震えて、高峰くんから目を逸らした。


――いや、違うか。


だって私は、所詮“高峰くんのお気に入り”。


(余計なことを言ったら、終わってしまうだけだ。)


近くて遠い歪な関係。

私が欲しい安心は、

きっと高峰くんの中にはない。


好きになればなるほど自分が出せなくなって、
ちょっとだけ息苦しい。


顔を背け合うのに、隣り合う距離は離れない。
もどかしいのに、手を伸ばすことはできなかった。

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