ハニートラップ
phase:33 距離
昼休み。空き教室。
いつも通りの密会。
窓際に並んで、微妙な距離。
今日も高峰くんは優しい。
窓から差し込む控えめな陽光が、動かない背中に当たって教室内に並んだ人型の影を作る。
いつもそんなに多くは喋らない高峰くんだけど、今日は輪をかけて喋らない。
怒っているわけではなさそう。
物憂げに毛先を弄りながら床の一点を見つめる姿は、何やら悩んでいるように見えた。
「ねぇ、」
不意に、高峰くんの気怠げな目がこっちを見る。
心臓がドキリと跳ねた。
――この呼び方をした時の高峰くんの用事は、大体無茶なことが多いから。
「ちょっと笑ってみてよ。」
「……ん?」
身構えていたのに、予想の斜め上をいくことを言われて思わず気の抜けた声が出た。
片眉を寄せてその意図を問うようにじっと見つめていると、高峰くんが私の左右の口端に人差し指を置いた。
「こう、締まりなく、にこーって。」
高峰くんの体温低めの指が、頬に押し込まれて口角を上げさせる。
間近でじっと私の顔を観察するどこか子供っぽい表情と、久しぶりの接触に、一瞬で顔が熱くなった。
「…………。」
私の顔が真っ赤になったのを目の当たりにして、高峰くんの目が丸くなる。
ふっと小さい笑い声が聞こえた。
「――かわい。」
眉を下げてはにかみ笑い。
(ずるい。ずるいよ、高峰くん。)
胸の音が鳴り止まない。
高峰くんが素を覗かせる瞬間が、とても好き。
私はそういう高峰くんを、もっと知りたい。