ハニートラップ
***
「あ。」
提出物のせいで呼び出された職員室の帰り、人気のない廊下で俊平の彼女と鉢合わせた。
――名前は確か……星野。
星野はプリントの束を抱える腕に力を込めて、引け腰になりながら顔を強張らせている。
すれ違うことすら躊躇うほど、俺を警戒しているようだった。
(……別に何もしないけど。)
わかりやすい態度に息を吐いた時、体育祭の日のやりとりを思い出した。
『こんなことしたって、珠桜ちゃんは振り向かないと思います、けど……』
あの時は外野に何がわかるんだって跳ね除けた。
けど、聞いてみる価値はある……か?
「珠桜ってどうやったら振り向くと思う?」
「……はい?」
質問が意外過ぎたのか、星野は思わず警戒を解いてあ然とする。
それから考え込むように視線を小刻みに左右に動かして、静かに息を吐き続ける。
彼女の頭の中は、自分が見てきた限りの珠桜と久哉の言動を必死で繋ぎ合わせながら正しい推察を探し続けている。
そして、頭に浮かんだものがひとつ。
(遊びが、本気になった?)