ハニートラップ

「ハッキリさせたいとか、思わないの?」

「……思わない。」

「……どうして?」

「そしたら終わるの、わかるから。」

千歳ちゃんが淡々と、でも優しく問いかけてくるから、自分でも驚く程素直に言葉が出てくる。

……いや、ずっと誰かに相談したかっただけなのかも。

ちょっと胸は痛いけど、喉の奥につっかえていたものを吐き出せたような気持ち。

小さく口元を緩ませる私の横顔に、千歳ちゃんは選択を迷うように眉を寄せる。


(正直、あの人には関わらない方がいいと思う。

でも珠桜ちゃんはそれを選ばないから――
せめて、拗れないように。)

そう心の中で呟いて、真っ直ぐ私を見た。


「――気持ち、伝えてみたらどうかな?」

心臓を貫かれたみたい。

“終わらせろってこと?”卑屈が真っ先に過ぎる。

けれど千歳ちゃんの顔は心配そうで、そんな意味には見えない。


「どうしてそう思うの?」

だから、聞いた。

千歳ちゃんはまた悩む様に言葉を詰まらせ、それから慎重に話し出す。

「この間、高峰くんと偶然鉢合わせて……
その時に相談、されたから。珠桜ちゃんのこと。」


ドクンドクンと胸の音が大きくなっていく。
これは、期待の音だ。

「全部は言えない、けど。
とにかく、言葉にした方がいい気がする。」


視界はクリアになったのに、周りの音は遠くなる。
今すぐ飛び出したくなって、浮かせた腰をすぐに降ろす。

焦りすぎだと自制した。

――そうしてる間に、チャイムが鳴る。
抑えてた気持ちがやっと解放された気がして、笑いそうになる唇を噛んだ。
< 122 / 162 >

この作品をシェア

pagetop