ハニートラップ
***
放課後。
隣を歩く高峰くんの顔をチラチラと伺う。
“顔色伺い”ではなく、タイミングを伺うためだ。
(気持ちを伝えるのって、こんなに緊張するんだ……。)
一歩家に近づくごとに、タイムリミットを意識して焦る。
すれ違う人の視線もいちいち気になった。
「……何?今日見過ぎじゃない?」
私の視線に耐えかねて、こっちを見た高峰くんが苦笑する。
目が合うと余計に緊張が煽られて、心臓が大きく脈打った。
(――今しかない。)
立ち止まった隙に弾みをつけて、深く息を吸い込む。
怪訝そうな高峰くんの顔がよく見えて、止まりそうになる言葉を何とか押し出した。
「――あのね、高峰くん。私……」
「久哉!」
背後からの甘い声に、遮られた。
驚いて振り返ると、綺麗な女の人が立っている。
――大学生くらいだろうか?
ミルクティー色のゆるふわのロングヘアに、派手なメイク、色っぽいタイトな服。
高峰くんを見て嬉しそうに顔を輝かせている彼女を見て、高峰くんも固まっている。
「――杏奈?」
その口から溢れた、女の名前に心が折れる。
“杏奈”と呼ばれた人が、私と高峰くんの間に割り込む。
流れた髪の余韻が、大人っぽい甘さの香水の匂いがふわりと運んできた。
「更にカッコよくなったねー。久哉。」
高峰くんの涼しい目が、その人を捉える。
綺麗に手入れされた手が、当たり前の様に高峰くんの金色の髪を掻き乱した。
大人の色が漂う、入り込めない雰囲気。
「その子……は、新しい遊び相手?趣味変わったの?」
艶っぽい唇が弧を描いてクス、と笑い声を漏らす。
見開いた目が、閉じないまま小刻みに揺れた。
――そして思い知る。
高峰くんは本来住むところの違う、
本気になっちゃいけない人だったって。