ハニートラップ

「帰る。」


ほんの少し乱れた衣服を整えながら、ドアに顔を向ける。

起き上がった杏奈は屈辱に顔を赤くして、険しい顔をした。

「はぁ!?ふざけないでよ!
いいの?久哉の大事な呼水珠桜ちゃんが――……」

珠桜の名前を聞いた途端、空気が氷点下まで下がりきる。


「あんま調子乗んなよ、クソが。」


今まで出したこともない低い声で威圧して無感情に杏奈を睨みつけると、杏奈の顔が初めて恐怖に引き攣った。


「――今出ていったら後悔するからね!」


キャンキャン喚くだけの負け惜しみは、聞き流す。
ずっと喧しく吠え続ける杏奈を放って、容赦なく部屋を出てドアを閉めた。


――バン、と無情に閉まるドアを見つめる杏奈の目は、静かな怒りで燃えている。

本命に構ってもらえないどころか、残材にされた不満を発散しようとしていたのに――
思い通りにならなかった苛立ちが炎上した。

「許さないから、絶対に……!」

手でスマホを強く握り締め、震わせた声は澱んだ空気の中に滞留した。


**complication/交錯【complete.】

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