ハニートラップ

***

久々に家に帰るはずだったのに、結局その気も失せた。

直後、杏奈に呼び出されて、苛々しながらアパートに向かう。
部屋に入ると、杏奈が不機嫌そうに俺を睨んだ。

「遅い!何やってたの?
すぐ来てって言ったじゃん!」

ヒステリックなキンキン声が煩わしい。
早く事を済ませたくて、上がり込むなり杏奈を押してベッドに倒す。

殺気立ってる俺を見上げて面食らったのは一瞬で、すぐに唇が笑みを浮かべた。


「……何?今日は積極的じゃない?
いつも言わないと何もやらないくせに。」

「…………。」

安い挑発はただのノイズ。
黙らせるようにその上に乗り上げると、杏奈は満足そうに腕を伸ばしてきた。


「――今日はさ、キスしよ?久哉。」

するりと這うような手が俺の後頭部に回る。
それに合わせて杏奈が上体を起こして、俺に顔を近づけてきた。


――熱っぽい吐息が唇にかかって、気持ち悪い。

「きゃっ!」

反射で強く杏奈の肩を押してベッドに沈める。
嫌悪感に思い切り眉を寄せ、俺はベッドから退いた。
< 142 / 162 >

この作品をシェア

pagetop