ハニートラップ
――その晩。
お風呂に入ろうとしたら、シャンプーの替えがなかったことに気付く。
サッカーチームの手伝い終わりに、買って帰ろうと思ってたのに。忘れてた。
時刻は夜10時を回っている。
この時間は、大通りのドラッグストアまで行かないといけない。
「ちょっと買い物出てくるね!」
玄関からリビングに向かって声を掛けて、返事も待たずに家を出る。
夏の夜は蒸し暑いけど、冷房で冷えた体にはまだ心地いい。
どこからか聞こえる虫の声を聞きながら、財布片手にぼんやりと夜空を見上げて歩く。
静かな、夜。
高峰くんと手を繋いで歩いた夏を、思い出してしまった。
半分こしたアイスと、
初めて見せてくれた“本当の笑顔”。
私はどうしてもそれが忘れられなくて。
だからずっと、どこか痛い。
あんなのきっと、高峰くんのほんの一欠片でしかないのにね。
ぽつぽつと街灯が照らす道に、高峰くんと歩いた痕跡を探す自分が嫌になる。
歩く速度を上げて、早く住宅街を抜けるためにいつかの森林公園を抜けていくことにした。