ハニートラップ

――そして、今日。

何事もなく1日が終わっていくと思って帰りかけたら、珠桜が初めて外に出てきた。
それも、1人で。

かなり距離をとって、気付かれないように後をつける。

嫌な予感はずっと消えなかったのに、珠桜ばかり見ていて何台も通りすがる車の中に何度も同じ車が紛れ込んでいることには気付かない。


公園の前で珠桜が足を止めたから、角に隠れて立ち止まる。
その間に例の車が珠桜の行手を阻んで、降りてきた奴らが珠桜に迫っていったのに気付くのが遅れてしまった。


下品な笑い声の直後、複数人が走る不穏な足音が遠ざかる。

焦って通りを見た時にはその先に誰も居なくて、公園に逃げ込んだのだと直感した。


「珠桜……!」


最悪の事態が起こった、と即時に頭が理解して全速力で後を追う。
切った風がキャップを後ろに飛ばしたけど、そんなのどうでもよかった。

目の前に飛び込んできたのは、見覚えのある男の汚い手が雑に珠桜の頬を掴んで歪ませている光景。

血液が引いたと思ったら急上昇して、走った勢いのままソイツを蹴り付けた。


「走れ!珠桜!」

頭が真っ白で細かなことは覚えてない。
ただ、珠桜を逃さなくてはと思ったのだけは覚えている。

「早く!」

恐怖で固まっていた珠桜が、背を向けて走り出したのを見てホッとする。

――瞬間、背後から肩を掴まれ容赦なく頭を殴られた。

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