こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
「うちの孫に謝罪はないのかね?」
「帰るのは向こうの扉だと親切に教えていただきましたが、謝罪をしなくてはならないようなことはしておりません」
 本当は適当にごめんなさいと言えばすむのはわかっているけれど、このくらいのささやかな抵抗くらいは許してほしい。

「では失礼します」
 遥が一歩足を出すと、靴がジャリッと音を立てる。
 掃除が大変そうだと同情しながら歩く遥の肩に、重い上着がかけられた。

「風邪を引く」
「すぐ乾くわよ?」
 夏なのだからと上着を返そうとした遥の手を止めた隼人は、軽々と遥を抱き上げ、扉に向かう。

「取引先が減っちゃったらごめんなさいね」
「別にかまわない」
 さすがM-ADCは余裕ねと揶揄う遥を、隼人は困った顔で見つめた。
 

「なんなんだ。あの女は! M-ADCとの取引も考え直した方がいいな」
「お爺様~。でも隼人さんは素敵なのぉ~」
 悪いのはあの女だと、やっぱり隼人と結婚したいと小百合は嘘泣きをしながら祖父に頼む。

「伊集院社長、長年お世話になりました」
「山本会長! 騒がしくて申し訳ない。今後とも弊社と……」
「いえ。M-ADCと取引を終了されるのであれば、我が社も伊集院製薬とは終わりにさせていただきます」
「それは、どういう……?」
 山本の言葉に、伊集院は目を見開く。
 
「先ほどの女性を突き飛ばしたのは、そちらのお嬢さんですよ」
 ずぶ濡れで部屋に入って来た時からのやり取りをすべて見ていたと山本が話すと、近くにいた他の来客たちも、お嬢様が急に彼女の背中を押したと証言した。

「伊集院社長。少しよろしいかしら」
「これはこれは、柘植会長夫人にまでお越しいただけるなんて……」
「挨拶は良いわ。さっきね、化粧室で黒いドレスの子がそこのお嬢さんにバケツで水をかけられたのよ」
 もうびっくりしてしまってと年配の柘植会長夫人は頬に手を当てながら、小百合にチラッと視線を向ける。
 小百合は気まずそうな顔をしながら、柘植夫人から視線を逸らした。
 
「黒いドレスの子はとても冷静で、感心してしまったわ」
 その子にタオルを渡したいけれど、どこかしらと柘植夫人はキョロキョロと周りを見渡す。

「先ほど帰ってしまいましたよ」
「あら、濡れたまま?」
「えぇ。婚約者の間宮CEOが連れて帰りましたよ」
 山本が伊集院の代わりに説明をすると、柘植夫人は「もう少し話してみたかったわ」と残念そうに肩をすくめた。

「……小百合? どういうことだ?」
「お爺様、悪いのはあの女よ!」
 私は悪くないと小百合は言い張る。
 会長・社長たちの冷たい視線に、伊集院の背中に冷や汗が流れた。
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