こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
 翌日、遥はベッドから出る気にはなれなかった。
 消防署へ行かなくてはならないのに、行きたくない。
 昨日の火事は夢だったのだと誰かに言ってほしい。
 そんな淡い期待を消すかのように、遥は隼人から一枚の書類を手渡された。

「この委任状にサインしてくれ」
「……委任状?」
「消防署で罹災証明書を申請してくる」
 食事は冷蔵庫に、食欲がなくても水分だけは取れと言われた遥は、泣きそうな顔で隼人を見上げる。

「……一緒に行くか?」
 行きたくない。
 でも、ひとりでいたくない。
 悩んだ末、遥は小さく頷いた。
 
 普段来ることなんてない消防署の車庫には、救急車や消防車がお行儀よく並んでいた。
 外ではホースの延長の訓練だろうか。
 声をかけ合いながら訓練している様子を見ることができた。

 1階の事務所で罹災証明書の申請をすると、会議室に案内される。
 遥と隼人は昨日の消防士から火災調査報告書を見せてもらうことができた。

「出火元はやはり建物前のプランターでした。少し背が高い木のようなものはありましたか?」
「キンモクセイが」
「では、おそらくそれですね。まずプランターが燃え、風で建物の壁に火が燃え移り延焼しました」
 会社の左隣の建物の防犯カメラに男性二人組が映っており、そのうち一人がタバコを吸いながら歩いていたが、右隣の建物の防犯カメラの時には手にタバコを持っていなかったと消防士は話した。

 被害届が出されていたため、現在は防犯カメラの映像を警察に渡し、人物を特定してもらっていると。

「その防犯カメラの映像って見せてもらうことは……?」
「プライバシー保護というか、いろいろと厳しくて。警察署で相談してもらえばもしかしたら見せてもらえるかもしれません」
 消防士は警察署の担当の名前と連絡先、火災調査報告書の案件番号をメモ用紙に書いてくれる。

「いつから中に入れますか?」
「倒壊の危険や有害物質の発生がないか確認できてからなので、早くて一週間後でしょうか」
 また連絡しますと言われた遥は、目を伏せた。

「いつの間に被害届を?」
「今朝、弁護士が提出した」
 昨日帰ってきてから頼んでくれたってこと?
 朝も委任状と言っていたし、私が寝たあとにいろいろと動いてくれていたんだ。

「……ありがとう」
 隼人がいてよかった。
 ひとりだったら何から手をつけたらいいのかまったくわからなかった。
 
 そのあと隼人は警察署に連れて行ってくれた。
 防犯カメラの映像をあまり見せたくなさそうだった担当者に頼み込み、見たということを口外しないことを条件に見せてもらうことができた。

 右上の日時は8月15日21時18分。
 20時30分に花火が終わり、ラーメン屋に移動して店に入った頃だろうか。
 ビジネスマンのような服装の男二人が歩いていく。
 画像は不鮮明だが、スーツにノーネクタイ、ビジネス鞄ではなくリュックサック、髪は少し長めのチャラい系の男性には見覚えがある。
 
「……勇気さん?」
 思わず呟いた遥に驚いた刑事は「知り合いですか?」と眉間に皺を寄せた。

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