こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
 洗い物をし、そっとボウルたちを元の場所に戻す。
 一応いい匂いはしてきたが、味は大丈夫だろうか?
 私より料理がうまい人にお菓子をあげるなんて相当チャレンジャーだけれど、でも買ったものではなく自分で作ったものを渡したかった。

「熱っ!」
 オーブンをのぞいてみたが、美しい焦げ色はついていない。

「どういうこと? 時間通りちゃんとやったわよ!」
 焼けているっぽいけれど、どうしたらよいのだろうか?
 もうちょっと焼く?
 でも焦げたら嫌だし。
 悩んだ結果、色が薄いまま諦めることにした。
 追加で何分焼けばいいのか全然想像もできなかったからだ。

「火が通っていればいいのよ」
 遥はマドレーヌをお皿に並べると、「ありがとう」というメモと共にリビングに置いた。

    ◇

 深夜2時、ようやくマンションに戻ることができた隼人は甘い匂いに首を傾げた。

「……作ったのか」
 リビングに置かれた犬の肉球型の食べ物には見覚えがある。
 懐かしい食べ物に隼人は口の端を上げた。

「混ぜすぎたんだな」
 薄い色のマドレーヌは焼けてはいるが膨らみが悪い。
 心配でしっかり混ぜたのだろうと隼人は遥の悪戦苦闘を想像しながら笑った。
 
「……変わらないな」
 遥に初めて出会ったのは21年前。
 父にエンジニアになりたいと打ち明け、猛反対された頃だ。
 
 エンジニアになりたいならプログラミング教室へ通ってみたらどうだと叔父に勧められ、迷わずツクモソフトに通うことに決めた。
 当時まだ子ども向けは珍しく、ツクモソフトだけが小学生を受け入れていたからだ。

 自分で書いたプログラムが初めて動いた時のことは今でもよく覚えている。
 うれしくて、楽しくて、動かないと悔しくて。

 富樫がスラスラプログラミングできていくのに俺はできなくて、負けたくなくて必死でやった。
 たった一年で教室が終わってしまうと知った時はショックだった。
 ロサンゼルスでもっと勉強して、誰もが驚くようなシステムを作ってやろうと決意した。
 
「富樫がツクモに入っていたのは驚いたけれど」
 マドレーヌを口に入れるとバターの香りが広がる。
 教室が終わってしまう日に遥が作ってくれたマドレーヌは、こんなにバターはなかったなと隼人は手に付いたバターを舐めた。
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