こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
「たまにはこうやって二人でゆっくりするのもいいな」
「毎日バタバタだからね」
 夕食は一緒だし食後も同じ部屋にはいるけれど、普段はお互い別のことをしている。
 あまり干渉し合うこともなく、恋人とは程遠い。

 だからそっと握られた手にドキドキするのは免疫のなさのせいだ。
 アラサーのくせにと自分でも思うけれど。
 
 映画の中でヒロインと彼が再会してキスするシーンに惑わされて、自分たちまでキスしてしまうような初々しい関係ではないのに。

 触れるだけのキスから夢中でキスするなんてありえない。
 吐息ですらときめくなんて。
 
 何よりもありえないのは、朝、隼人の部屋のベッドで目覚めた瞬間に「おはよう」と微笑まれたこと。
 思ったよりも逞しい腕を枕にしていた遥は、恥ずかしさを誤魔化すように「首が痛いわ」と呟いた。

    ◇

 集中できない。
 遥は今日から在宅勤務にしてしまった自分を少しだけ恨んだ。
 目の前でパソコンのキーボードを猛スピードで打っている男は今日も忙しそうだ。

 オンラインミーティングは英語。
 電話も英語。
 ときどき髪をかきあげる仕草が色っぽい。
 って、ストーカーみたいじゃないのよ!
 
 佐久間から届いた工場の更新契約書に社印を押し、メールで返送するとすぐに「暇だろ?」と揶揄いのメッセージが飛んできた。

『めちゃめちゃ忙しいわよ』
『嘘つけ。外出できないし、やることないだろ』
 佐久間からヤスの健康管理アプリの保存先が飛んでくる。

『動作テストしてって、ヤスさんから』
『普通に開けばいい?』
『できればOKとか、こんなエラーが出たとかまとめておいて欲しいってさ』
 動作テストって何をすればいいんだろう?
 OKってどこに書くのよ、ヤスさん。
 う〜ん? と唸る遥に気がついた隼人が手を止め声をかける。

「どうした?」
「動作テストって何をしたらいいの?」
 遥の後ろから画面を覗き込んだ隼人は、表計算ソフトを立ち上げ、項目を記載してくれる。

「たとえば……」
 このボタンを押した時に期待する動作、その動作をしたらOK、違ったらどうなったか記載すると丁寧に教えてもらっているのに内容がまったく頭に入ってこない。

「わかったか?」
「あっ、う、うん。ありがとう」
「じゃ、教育料」
 当然のようにキスをしてから隼人はパソコンに戻っていく。

 なんで急にこんなに積極的に!?
 真っ赤な顔で隼人をチラ見した遥は、普段と変わらない余裕たっぷりな態度で仕事に戻った隼人に「悔しい」と呟いた。
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