こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
「親切にテストをするのなら、この境目、何文字ならOKで何文字はダメだったというテストもしてやると開発者は喜ぶ」
「嫌がるんじゃなくて?」
「あぁ。自分が再現する時にわかりやすいだろう?」
「だから『!』とか、入れた文字まで書くの?」
「そうだ」
 がんばれよと遥の頭を撫でると、隼人はまたパソコンの前に戻ってしまう。
 もっとエラーを出すぞと張り切ってみたが、結局遥は全然出すことができなかった。

「なんで? あんなに簡単に2個も出したのに!」
「だから性格が悪い奴しか向いていないと言っただろう」
「悔しい~!」
 絶対出すんだからと、違う順番で押してみたり、画面を戻ってみたりしてみたがアプリが消えることはない。
 7時間ほど夢中でテストしたが、結局一度も出すことはできなかった。

 今日のテスト結果を佐久間に送信してパソコンを閉じる。
 明日こそもっとエラー出すから! と謎のメッセージもメールに書いておいた。

 夕飯を作っている隼人をダイニングテーブルから眺め、一緒に食べ、また映画を見ながら過ごす。
 翌日も動作テストを行いながら、契約更新のメールは佐久間に転送し、ときどき届く嫌がらせメールはサクッと削除し、社員からの相談にはメールを返信。
 意外と在宅勤務でもなんとかなるものだなと、遥はのんびりと外の景色を眺めた。

「遥、カフェオレ飲むか?」
「飲みたい!」
 遥が弾んだ声で答えると、キッチンから香ばしい豆の香りと共に、完璧な比率で泡立てられたカフェオレが運ばれてくる。
 本当にこの男にできないことは何もないのだろうか?

「カフェに行く必要もないわね」
 ここでこんなにおいしいカフェオレが飲めるなら、わざわざ夏の日差しが強い中、出かけていく必要はない。
 
 でも。
 ふわりとしたミルクの泡を唇につけた遥に隼人は迷いなく指を伸ばし、泡をそっと拭い取る。
 指についた泡をペロッと舐めてしまう黒豹のような男の情熱を孕んだ瞳には、なかなか慣れそうにない。
 
 やっぱり一線を越えてしまったのはマズかった気がする。
 隼人とはあくまでビジネスの関係だったはずなのに。
 いろいろありすぎて一瞬の気の迷いというか、映画の雰囲気に流されたというか。
 なんて言い訳をしながらも、嫌ではなかったし、むしろ……。
 
「……か、遥?」
「えっ? な、なに?」
「大丈夫か? 疲れて……」
 心配そうに顔を覗き込んできた隼人の端整な顔のせいで、遥の脳裏には数日前の「一線を越えた夜」の記憶が鮮明にフラッシュバックする。

「な、なんでもないわ」
 カフェオレが熱かっただけよと必死で誤魔化す遥の指に、隼人は自分の大きな指を割り込ませた。
 絡めていた指にさらに力がこもり、遥の体が隼人の方へと引き寄せられる。
 カフェオレの甘い香りが漂う部屋で、二人の唇が再び重なるまで、あと数ミリもなかった。

    ◇
 
「じゃあ、出かけてくるね」
「……どこに?」
 9月のある土曜、身支度を整えて出かけようとした遥は、隼人に止められ首を傾げた。
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