こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
『まずは、先日の火災被害に関する会見において、弊社はツクモソフトが完全なる被害者であることを公表し、執拗な取材の自粛を要請いたしました』
壁のスクリーンには先日の記者会見後に正式に通達した書面が映し出される。
『しかしながら、一部のマスコミ、および特定の個人はこれを無視。本日、代表の九十九社長に対し、事実無根の中傷およびストーキング行為に及んだことを確認しております』
会場にざわめきが広がり、複数のマスコミの中にバツが悪そうに目を逸らす眼鏡の男の姿があった。
『これらの行為に対し、弊社は厳正な法的措置を講じる所存です。……そして』
弁護士が言葉を切った瞬間、重厚な扉が開き、完璧なスーツに身を包んだ隼人がひとりで登場する。
一斉に焚かれるフラッシュの渦。
壇上の中央、マイクの前に立った隼人の表情には一点の曇りもなく、恋人を守る男の顔であり、同時に邪魔者を排除しようとする非情な経営者の顔のようだった。
『一部で、私が火事を理由に強引に迫られているという、極めて悪質な噂が流れているようですが』
隼人は一度言葉を切り、冷ややかな視線で「眼鏡の男」を射抜く。
『事実は正反対です』
隼人の低く、けれど芯の通った声が会場の隅々にまで響き渡った。
タブレット越しでもフラッシュライトが眩しい。
会場内はもっと眩しいのだろうなと遥は他人事のように、ぼんやりと眺めた。
『私は子どもの頃から彼女に恋焦がれていました。ようやく釣り合う立場になったと思った矢先に彼女の父親が亡くなり、彼女の弱みに付け込んで近づきました』
「……え?」
隼人の言葉に、一番驚いたのは遥だ。
「……子どもの頃って本当だったの?」
以前、ディナークルーズで言っていたのは、あの場を誤魔化す設定なのだと思っていたのに。
子どもの頃に会っているって。
いつ?
全然記憶にないけれど。
「ダメよ、動かないで」
リリーは遥の肩をガシッと掴むと、手早くリップの仕上げにかかった。
『私がアメリカで起業したのも、すべては彼女のため』
「最高に重くて、最高に一途な男ね」
子どもの頃から好きで起業までって、やりすぎよとリリーが笑う。
「リリーさん、遥さんの準備はいかがでしょうか?」
「大丈夫よ。あの冷徹なエリートを、数十年も狂わせ続けてきた『罪な女』が完成よ」
さすが私と自画自賛するリリーに、遥は困った顔で微笑んだ。
田沼が運転する車は会社の地下駐車場に入り、一等地に車が止められる。
「本当にこの姿であの会場に?」
馬子にも衣裳すぎないかと遥は不安になる。
「あらやだ。私はプロよ」
「リリーさんがすごくても、元の素材が残念では……」
どうにもならないこともあるだろう。
田沼が静かにドアを開け、遥は車から降り立つ。
風を孕んだドレスの裾が軽やかに、そして贅沢に揺れた。
これが映画のワンシーンや本物の女優なら、どんなに絵になるだろうか。
「遥さん、こちらです」
「……行かないわ、なんて言えなさそうね」
もう逃げることは許されない。
ううん、逃げてはいけない。
彼は今、会場でひとりで闘っているのだから。
それに、子どもの頃っていつ? と聞いてみたい。
「田沼さん、案内お願いします」
先導する田沼の背中は、いつになく頼もしい。
「私の最高傑作よ。自信持ちなさい」
「リリーさん、ありがとう。行ってきます」
遥は深く息を吸い込み、記者会見会場に向かって力強く一歩を踏み出した。
壁のスクリーンには先日の記者会見後に正式に通達した書面が映し出される。
『しかしながら、一部のマスコミ、および特定の個人はこれを無視。本日、代表の九十九社長に対し、事実無根の中傷およびストーキング行為に及んだことを確認しております』
会場にざわめきが広がり、複数のマスコミの中にバツが悪そうに目を逸らす眼鏡の男の姿があった。
『これらの行為に対し、弊社は厳正な法的措置を講じる所存です。……そして』
弁護士が言葉を切った瞬間、重厚な扉が開き、完璧なスーツに身を包んだ隼人がひとりで登場する。
一斉に焚かれるフラッシュの渦。
壇上の中央、マイクの前に立った隼人の表情には一点の曇りもなく、恋人を守る男の顔であり、同時に邪魔者を排除しようとする非情な経営者の顔のようだった。
『一部で、私が火事を理由に強引に迫られているという、極めて悪質な噂が流れているようですが』
隼人は一度言葉を切り、冷ややかな視線で「眼鏡の男」を射抜く。
『事実は正反対です』
隼人の低く、けれど芯の通った声が会場の隅々にまで響き渡った。
タブレット越しでもフラッシュライトが眩しい。
会場内はもっと眩しいのだろうなと遥は他人事のように、ぼんやりと眺めた。
『私は子どもの頃から彼女に恋焦がれていました。ようやく釣り合う立場になったと思った矢先に彼女の父親が亡くなり、彼女の弱みに付け込んで近づきました』
「……え?」
隼人の言葉に、一番驚いたのは遥だ。
「……子どもの頃って本当だったの?」
以前、ディナークルーズで言っていたのは、あの場を誤魔化す設定なのだと思っていたのに。
子どもの頃に会っているって。
いつ?
全然記憶にないけれど。
「ダメよ、動かないで」
リリーは遥の肩をガシッと掴むと、手早くリップの仕上げにかかった。
『私がアメリカで起業したのも、すべては彼女のため』
「最高に重くて、最高に一途な男ね」
子どもの頃から好きで起業までって、やりすぎよとリリーが笑う。
「リリーさん、遥さんの準備はいかがでしょうか?」
「大丈夫よ。あの冷徹なエリートを、数十年も狂わせ続けてきた『罪な女』が完成よ」
さすが私と自画自賛するリリーに、遥は困った顔で微笑んだ。
田沼が運転する車は会社の地下駐車場に入り、一等地に車が止められる。
「本当にこの姿であの会場に?」
馬子にも衣裳すぎないかと遥は不安になる。
「あらやだ。私はプロよ」
「リリーさんがすごくても、元の素材が残念では……」
どうにもならないこともあるだろう。
田沼が静かにドアを開け、遥は車から降り立つ。
風を孕んだドレスの裾が軽やかに、そして贅沢に揺れた。
これが映画のワンシーンや本物の女優なら、どんなに絵になるだろうか。
「遥さん、こちらです」
「……行かないわ、なんて言えなさそうね」
もう逃げることは許されない。
ううん、逃げてはいけない。
彼は今、会場でひとりで闘っているのだから。
それに、子どもの頃っていつ? と聞いてみたい。
「田沼さん、案内お願いします」
先導する田沼の背中は、いつになく頼もしい。
「私の最高傑作よ。自信持ちなさい」
「リリーさん、ありがとう。行ってきます」
遥は深く息を吸い込み、記者会見会場に向かって力強く一歩を踏み出した。