喰 喰

ただ気づかなかっただけだろう。
教室内は騒いでいたのかもしれない。
普段、他の人に接するように丁寧で。優しい雰囲気。
「お昼に、図書室に来て。一緒に食べよう?その時……紹介したい奴がいるんだ。」
泣いている私に穏やかに微笑み、手を伸ばして零れた涙を指で優しくぬぐう。
【ドク……ン】
心が反応する。
これは。
だけど。それも一時。
始業開始前のチャイムで、彼は私に背を向ける。
「待っているから……」
小さな声は、会話のトーンより低かった。
周りに聴こえないように言ったのかな……?
「よかったね。心配する必要ないよ!」
湖未ちゃんは、明るく笑う。
私には心に曇る何か……予感のようなもの。
ひっかかる。違和感。楽観視などできなかった。
紹介したい奴……それが誰なのか、不安が襲う。
そう。影から見てきた。遠巻きに。
みんなと仲良く、優しそうに話す彼。
けれど、特別な仲の友達を知らない。
微かな記憶。あれは。
思い出せない。
それほど私の知らない人なのだと、今更……
知らないことが怖い。
こんなことがあっても、彼に対する想いが変わったわけじゃない。
近づけた距離に、幸せが勝って……想いは別の感情を得ていく。
そう。変わらず好き……
憧れ。淡い想い。彼の事を考えてきた時間は積み重なり。
湖未ちゃんに語ってきた多くの妄想の夢物語。非現実だったもの。
けれど、この現実に面し。あの頃に戻ることもできず。
きっと戻れない……
彼との関係は終わりなのか、始まりなのか。


< 6 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop