喰 喰
表情は変えず。声だけは低く。
「あいつの愛情が欲しいんだろ?」
オレ。ノゾミ。あいつ。愛情。
理解と繋がらない言葉の並び。違和感。
予感のようなものが迫るように。生じるのは恐怖。
「希渉くん……何を言っているの?」
声の震えているのが、自分でも分かる。
「オレ“達”は希渉じゃない。……オレはワタル……お前が好きじゃない“オレ”。」
……『俺じゃないオレ』
頭に浮かんだ言葉。
首を元の位置に戻し、視線を逸らす。
沈黙と時計の秒針音。
私は息を吐き出し、顔を上げた。
手をついて、立ち上がり。体の向きを変え、彼に対峙する。
すると。既視感のある眼。
「茶紗……俺、二重人格なんだ。君だけは、理解してくれるよね?ずっと俺を見てくれていたから。」
いつも聞いていた声のトーン。
二重人格。ずっと見ていたから、理解できる?
本当に?
既視感。多分、これが答え。
「俺たちを受け入れて……」
理解できないけど、立ち止まったままではいられない。
彼と視線を合わせたまま。
私に向けたのは、優しい笑顔。
その他大勢に向ける穏やかな微笑みとは違う。許されたような。
「ふっ。俺を見ていた眼だ……まだ、その目で見てくれる?」
「……ノゾミ君?私……付き合えない。」
自然と出た私の答えに、彼の表情が固まった。
少しの沈黙。
次の言葉を出そうと、口を開いた私を抱き寄せる。
「許さないって言ったよね?許さないから……」
怖いと感じた。
でも……震えが、自分のものでないことに気づく。
彼から伝わるのは感情の波。
湖未ちゃんとの記憶からなのか。
自然と動かされ、彼の背中に腕を回した。
【ビクッ】
彼の体が緊張を示す。