幼馴染のち恋模様
5月下旬の春らしい風が穏やかに吹くある日。駅直結の憩いの場がお披露目される。
今日までの1年弱、このプロジェクトに携わってたくさんの学びがあった。
プロジェクトを街の人に文章で伝える立場として、人が創り上げるものの尊さと難しさを様々な視点で見聞きした。
そのうち、このプロジェクトに並々ならぬ愛着が湧いて、建物完成の時の記事にはだいぶ気持ちが乗ってしまった。
完成の日は梗介と並んで喜びを共有できたことが嬉しくて、しばらく眺めて浸っていた。
たくさんの人の様々な想いが創り上げたこの建物は【結テラス】と名づけられた。
人と人、想いと想い、過去と未来、それらを“結ぶ”場所。誰とでも繋がれる場所。
そんな素敵な空間に今日はたくさんの人が集っている。
プロジェクトに関わった方、霜月に住む方、友達に呼ばれてちょっと見に来た方・・・
鮮やかな装飾に彩られた空間に笑顔が溢れている。
どんな人でも利用できるこの場所に似合いのお披露目式だ。
「葵ちゃん、お疲れ様!」
みんなの楽しげな様子を記事に載せるため写真を撮っていると外から声がかけられた。
「菫さん!」
梗介の母、菫が葵の母と一緒に来ていたようだ。
母の腕に絡め取られているのは困り顔の梗介。
「見て葵!梗介くんのスーツ姿!格好良いわ〜!成人式の日に見た以来だから記憶に刻み込まないとね!」
「百合さん、褒めすぎ」
「昴くんも梗介くんも顔が良くて眼福だわ〜!葵、写真撮って!」
母の興奮ぶりにドン引きだ。
白けた顔で適当に写真を撮っておく。
「菫さん来てくれてありがとう。軽食もあるから食べてね」
「えぇ、後で頂くわ」
優しく微笑んでからこう続けた。
「・・・葵ちゃん、素敵な場所を創ってくれてありがとう」
この空間を創り上げたのは役所の方や、鉄道会社の方、テナントのオーナーさん、現場の施工を行った方たち、霜月に関わる全ての人、そして、東雲梗介という建築士だ。
本当に素晴らしい仕事をした格好良い方たち。
「私は記事にして伝えただけだよ・・・」
「だけなんてことないでしょう?梗介に聞いたわよ。街の人の声を届けようとする葵ちゃんの熱い気持ちがあったからここまで来られたって」
そんな風に言ってくれていたのかと梗介を見る。
当然だと胸を張りながらも、照れたような少し拙い笑い方に心がじんわり温まる。
「そっか・・・そう、かな?ただ、諦めたくなかっただけの意地だったけど、梗介がそう言ってくれるなら少し報われる気がするよ」
梗介と微笑み合っていると待ってましたと言わんばかりに母たちの見せ物となる。
「ラブラブね〜」
「今日は仕事ですって顔してたくせに愛が隠しきれてないわ〜」
「ちゅーくらいしちゃうかしら?」
「やだ百合ちゃん!見たいわ!」
「そうよね!」
母二人に期待の眼差しを向けられるがするわけがない。
「二人とも、いい加減に・・・」
チュッ
頬に押し付けられた柔らかい感触。驚いて固まる葵。
え?何が起きた?
「「きゃー!」」
「梗介くんナイスサービス!」
「梗介やるじゃない!」
「人前だからこのくらいにしておかないとな」
この男はなぜ満足げに笑っているんだ・・・。
「梗介!本当にする必要ないでしょ!?」
「俺はいつでもしたいけど?」
したいからっていつでもどこでもして良いわけではない!
母たちに挨拶して、怒る葵を梗介が宥めながら中に戻る。