幼馴染のち恋模様
梗介side
中に入ってしばらくは葵と挨拶回りをこなしていた。「妻の葵です」と紹介する度に緊張した様子でぎこちなく笑う葵が可愛い。まだドキッとしてしまうと小声で囁かれた時にはこっちがドキッとした。押し倒して良いだろうか?
次のところへ移動していると、見知った顔を見つける。
「梗介、葵ちゃん」
そこにいたのは藤堂社長と瑠奈だった。
「こんにちは。来てくださったんですね」
「こんにちは、藤堂さんに瑠奈さん」
梗介の挨拶の後に続いて葵も挨拶する。
社長も瑠奈もにこやかに微笑み、今日の催しを楽しんでくれているようだ。
「今日は呼んでくれてありがとう」
「素敵な空間ね。私が言うのは烏滸がましいけれど、完成おめでとう。来れて良かったわ」
申し訳なさそうに眉を下げて笑う瑠奈。
この前の件から数日後、瑠奈はゴシップ誌への謝罪と訂正、そして、社長と共に謝罪会見を開いた。
その会見後に、再度菓子折りを持って謝りに来てくれた時は驚いたが、そこで葵と名前を呼び合う仲になった。まだ俺自身、仲良くすることに納得いっていないが、葵が仲良くしたいと主張するので黙って見守ることにした。
話していて少し真緒と似ているそうだ。それを聞いたら真緒が憤慨するだろうな、と悪寒が走った。
今日のお披露目会も葵が来てほしいと誘い、社長も一緒にと伝えていたので、来てくれて嬉しそうだ。
瑠奈の母親は、手紙で謝罪してきた。社長から渡された手紙には短く『母親でありながら、娘の愚行を止めるどころか加担して罪を犯したこと、本当に申し訳ありませんでした。』と直筆で書かれていた。その手紙とともに母親は今後公に出てくることはないだろうと社長から説明があった。心穏やかに過ごしてほしい、と話す葵はどこまでも優しい人間だ。こんなにも優しくて思いやり溢れる人をこれ以上傷つけられたくはないと、身が引き締まる思いだった。
「梗介くん、今日のお祝いにロールケーキを持ってきたんだ。うちの会社ので申し訳ないが、良かったら来ている皆さんと食べてくれ。葵さんも是非」
「「ありがとうございます」」
「皆さん喜ぶと思います!並べてきますね」
葵はロールケーキを並べにその場を離れる。
「梗介、私また建築士の仕事に戻ろうと思ってるの」
瑠奈は吹っ切れた様子で話した。
「・・・そうか。また仕事で会うこともあるかもしれないな。頑張れよ」
「また、梗介を唸らせるような建物を創ってみせるわ」
瑠奈の清々しい笑顔があの頃のひたむきな瑠奈の姿と重なり、梗介は安堵した。
「俺もうかうかしていられないな」
こうしてまた、建築士として切磋琢磨し合えるようになれたのは葵のお陰だ。
ロールケーキを並べている葵に目を向けると、子どもに小さくカットしたロールケーキを渡していて、無意識に口元が緩む。
「ニヤニヤ見つめていないで行ってあげたら?」
瑠奈もニヤニヤしながら背中を押してくる。
隣で微笑ましそうな笑顔の社長がちらっと視界に入ったが見なかったことにする。
「お言葉に甘えて行ってくるよ。楽しんで」
二人に別れを告げ葵の元へ向かった。