幼馴染のち恋模様
一年後_______
6月の初め。穏やかな気候と爽やかな風が心地良い。
そんな風情とは裏腹に私の心は緊張で張り裂けそうになっている・・・。
「スーッ・・・はぁ・・・スーッ・・・はぁ」
何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせるが、一向に落ち着く気配がない。
「葵さん、緊張しますよね。でも、白無垢姿とてもお綺麗ですよ?目に焼き付けておかないと勿体ないです!」
私たちを担当してくれているプランナーさんが、励ましの言葉をくれる。
「今見たら吐くと思います・・・」
「なぜ!?」
なんと、今日は待ちに待った結婚式の日!と前日まではワクワクしていた葵だが、いざ自分が着飾られていくとどんどん実感が湧いてきた。
今から大勢の前であの梗介の隣に立つのか・・・と。
着飾っているとはいえ、注目を浴びながらあの顔面偏差値が桁外れの人間の横に、平然と並び立たなければいけないのか、と緊張を通り越してもはや恐怖だ・・・。
「そろそろ梗介さんもいらっしゃると思いますから、緊張をほぐしてもらいましょうね」
あやすような言い方をするプランナーさん。
梗介が原因なのに梗介にほぐせるわけがないのですよ・・・。
コンッコンッコンッ
途方に暮れ遠くを見つめる葵の耳にノックの音が響く。
「梗介さんが来たようですね。お通ししてよろしいですか?」
「ダメです!ダメに決まってますっ!」
「決まってるんですか・・・?」
葵の必死の形相にプランナーさんは若干引いている。
「葵?入っていいか?」
扉の外から梗介が声をかける。大好きな人の声が今日ばかりは恐怖の足音に聞こえる。
「・・・・・・どうぞ」
思いの外、声が小さくなってしまって梗介まで届かない。
プランナーさんが気を利かせて扉を開けてくれた。
入ってきた梗介を見ることができなくて、俯いて固まる。
梗介の袴姿は一度衣装選びの時に見ている。何を着ても完璧に着こなす梗介をあの時はキャーキャー言いながら楽しく見ていられたのに・・・。
「葵?どうした、具合悪いのか?」
心配して顔を覗き込む梗介。
どうしても視線を合わせられなくて、申し訳なくて泣きそうになる。
「一度二人きりにしていただいてもいいですか?」
「承知いたしました。10分ほどで移動のお時間となりますので、10分後にお声掛けさせていただきますね」
梗介の申し出にプランナーさんが一礼して退出する。
未だ俯いて目を合わせない葵の隣に梗介が椅子を持ってきて座る。
「さっき圭吾さんと百合さんに会ったんだ」
「お父さんとお母さん・・・?」
「うん。結婚式を挙げてくれてありがとう、って。葵が幸せなのは見ていれば分かるけど、幸せを形にできるのが結婚式だと思う。だから葵にもたくさんの人に祝福されて幸せを実感してもらえることが本当に嬉しいんだ、って言ってた」
お父さん、お母さん・・・。
両親から愛されて育った。その愛を少しでも返していきたい。今日はその一歩目なのかもしれない・・・。
「圭吾さんと百合さんが深い愛情を持って育ててきてくれた葵を、今度は俺が負けないくらいの愛情を持って大切にしていきたい。その覚悟を今日来てくれた人たちに示すよ」
梗介は葵の手を握り、諭すように語りかける。
もう十分すぎるくらいの愛を貰っているのに・・・。
何を怯えていたのか。私だって梗介を愛して守って大切にする覚悟がある。それを今日、示すんだ。
「何か不安があるなら言葉にしていいんだよ。俺が原因なら葵が納得してくれるまで改善に努めるから」
「違うの・・・すごく心配させといて申し訳ないんだけど・・・梗介の顔が・・・」
「顔・・・?顔は、変えようがないな・・・ごめん」
落ち込む梗介を見て慌てて否定する。
「そうじゃなくて!・・・梗介の顔が、良すぎて・・・隣に立つのが怖いなぁ・・・って・・・」
梗介の時間が止まる。
恐らく脳内フル回転で意味を考えていることだろう・・・。
自分でも意味不明だ。ごめんなさい。
「・・・うん。なら良かった」
脳内会議が終わったようですんなり納得され、拍子抜けする。
え?それだけ・・・?
「怒っていいよ・・・?」
「いや、思ったより浅くて安心したのが大きいかな」
「浅いとは失礼なっ!これでも深刻だったんだからね!」
「はははっ、葵は本当に可愛いな。ふっ、可愛い」
笑いながら葵を抱きしめる。さっきまでの体の強張りがスーッとほぐれていく。
梗介にほぐされてしまった・・・。
「俺が言っても緊張を煽るだけかもしれないけど、言わせて」
少し間をあけてこう続けた。
「綺麗だよ」
梗介が見惚れるように葵を見つめる。
「いつも綺麗で可愛いけど、今日は誰にも見せたくないくらい綺麗だ」
「ふふっ、大勢に見られちゃうね」
「今すぐ連れ帰って寝室に二人で閉じこもりたい」
「ん!?」
なんだか怪しい雰囲気を察知する。
「あ!梗介もすごく格好良い!だから緊張してたんだけど、もう大丈夫そう!そろそろ行こっか」
立ち上がったがグッと手を引かれ梗介の膝の上に着地する。
そのままギュッと抱きしめられ無言の悲鳴をあげる。
「さっきも思ったけど、白無垢って何層にもなってるから葵が感じられない・・・葵の柔らかさが全部隠されてて脱がしたくなるな」
「ちょちょっちょっと!ストップ!」
コンッコンッコンッ
葵の静止の声と同時に扉がノックされた。
「時間切れか・・・今夜が楽しみだな?」
妖艶な笑みを残して葵を立たせると、手を引いて外へ出る。